ワイコフの相場成功指南 目次

まえがき

 本書は至れり尽くせりの株式トレード指南書である。  その内容は、資金の準備から始まって、本格トレードに入る前の練習法、銘柄選び、仕掛け方、ストップ注文の出し方、相場展開の読み、利益確保の方法、手仕舞い方、さらに心のコントロールなど、トレードのすべての面にわたっている。ほぼ100年前にこれを読んだトレーダーは、大きな力を身につけたことだろう。

 100年前といっても、株式売買の仕組みは基本的に今と変わっていない。だから、本書の内容のほとんどは、現代の相場に通用するものである。例えば、ワイコフはストップ注文の手法を詳しく説明している。初めは、注文を抵抗レベルに置いて、利が乗るに連れてそれを動かしていくのである。これがトレードの原則のひとつであることは、今も同じである。むしろ、その力強く、分かりやすい説明を読むと、かえって新鮮に目に映る。  ティッカーという機械が、ある意味で本書の主人公である。ティッカーとは、紙のテープに出来値や出来高を次々と印刷していく機械である。リアルタイムで相場情報を伝える現代のパソコンを思い浮かべていただければいいだろう。トレードでは、刻々と変わる相場をどう読むかが勝負の分かれ目である。ワイコフは本書でたくさんの実例を使っている。当時花形だった鉄道株の激しい動きに即した説明は、実践的であると同時に、大変スリリングである。

 すでに出版されている『ストックマーケットテクニック 基礎編』『ワイコフの相場大学』(いずれもパンローリング社刊)と比べると、本書の内容はその20数年前に書かれたものである。ワイコフは相場の前線に立ちながら、トレード法の執筆を行っている。本書は成り立ちからいっても、内容からいっても実践編とでも言うべきものである。前二書と合わせて読んでいただければ幸いである。

 2004年10月

鈴木敏昭

第9章 デイトレード対長期トレード

 ちょうど今、私は、底辺の幅が1センチ弱の小さな三角形の吸い取り紙を手に取って、ピンの先に突き刺したところである。そして、紙の上にインクを一滴落として、その吸い取り紙をそれに当てる。インクはほとんど吸い上げられて、紙はだいたい乾いた状態となる。

消化

 まさしくこれと同じことが、供給を上回る消化力があるときに、市場の反応としてテープに現れる。大量の株が売り呼値で引き取られ、上値が切り上がっていくのだ。株価は急激に上昇する。需要は満たし切れないようにみえる。  吸い取り紙は、そんなふうに2、3滴吸い取ると、もうそれ以上吸い上げられなくなる。限界まで吸収したのである。需要が満たされたわけだ。ちょうどそんな具合に、相場は上昇の頂点で歩みを止め、そこで動かなくなる。新たな株価レベルで、需要と供給が均衡に達したのである。

 ここで、ペンにインクをたっぷりつけ、その先端からインクを吸い取り紙の上に落としてみる(これは、相場では株のディストリビューションに相当する)。一定量を越えると、吸い取り紙はもうそれ以上インクを含むことができなくなる。しずくができて紙の上に落ちる(供給が需要を上回った)。吸い取り紙の上にさらにインクを落とすと、しずくの落ちるのが早くなる(投げ売り――相場は下げに転じる)。  こんなふうに考えれば、互いに対立しながら、絶えず相場で作用している主要な力――消化とディストリビューション、需要と供給、支持と抵抗――を、簡単に頭の中に刻み込むことができるであろう。これらの要素の評価や判断が的確にできるようになるにつれ、相場で成功する可能性も高くなる。

注意深さ

 しかし、いくら正確にテープを読み取っても、その日の一瞬一瞬に起きる出来事のせいで、それが無駄になってしまうこともよくある、ということは覚えておくべきだ。持株が急に上昇し始めたとしても――どう見てもゆうに数ポイントは行きそうな勢いでも――2ポイントほど上げたところで、消化し切れない量の売り物にぶつかるかもしれない。あるいは、何か思いがけない出来事で、全体の相場つきが変わってしまうかもしれない。テープ解読者はそうした変化を素早く感じ取り、ポジションを変更して、新たに形成されたトレンドに従わなくてはならない。

 トレーダーが1日に2回、間違った側に引っかかったが、結果的に利益を手にすることができたという例を、1908年12月21日のテープで見ることにしよう。

誤り

 ユニオン・パシフィックは、前日の終値よりも安く始まった――500.179.6000.178 3/4と続き、寄付き後しばらくの動きから見て、幾分インサイダーの支持があるようだった。ここでテープ解読者が、

 ユニオン・パシフィックを178 7/8ドルで100株買った

 としよう。だが、しばらくたつと、かなりまとまった新規の売り注文が出て、弱さが現れ始めたことに気づく。そこでテープ解読者はただちに、

 ユニオン・パシフィックを178 1/4ドルで売り

同じ値段で100株売り建てる。弱さは増し、176 1/2ドルまで下げるが、その後、下げ圧力が一時的に消えたことを示す警告が出る。サザン・パシフィックやそのほかの銘柄がかなり強含みとなり、ユニオン・パシフィックに買い戻しの動きが始まる。株価は、600.176 5/8.1000.3/4.177 1/4と推移する。テープ解読者はこれを転換点と見て、その時点の売り呼値を引き取り、

 ユニオン・パシフィックを176 7/8ドルで200株買った。

 これで買い持ちになったことになる。それ以後、相場はさらに戻すが、テープに現れるのは小口の取引ばかりである。  しばらくして相場は動きを止める。反発は腰がすわっていない。テープ解読者は、株価が再び反落して、前の安値までいくかもしれないと考える。事実そうなるが、そこでは止まらず、さらに下げて176ドルに達する。それに伴い、ほかの先導株も相当に弱くなっている。テープ解読者はこれを新たな売りの開始と見る。そこで、

 ユニオン・パシフィックを176ドルで200株売った。

つまり、買い持ちの株を処分すると同時に、176ドルで新規に売り建てたわけである。  弱気は続き、反発の兆しは現れず、株価は174 1/2ドルに達する。昨日と比べ6 1/4ポイントの下落である。今やテープ解読者は、目を大きく見開いて反転の兆しを探している。ここからは、1/8ドルずつ下げるたびに、今はまだ不明な転換点に近づいていることを心得ているのだ。

反転をとらえる

 174 1/2ドルを付けたあと、相場のトレンドはがらりと変わる。買い呼値に対し、次第に大口の買いが入るようになる。最後の突っ込みがあるが、取引は非常に少ない。この突っ込みのときに、テープ解読者は、

 ユニオン・パシフィックを174 7/8ドルで100株買い戻し、

 反発の指標が増えるのを見て、

 ユニオン・パシフィックを175 1/4ドルで100株買う。

 ここから先の道は容易だった。大引け間際には、最後に買った株を売るチャンスがいっぱいあり、結局、

 ユニオン・パシフィックを176 5/8ドルで100株売った。

  買い        売り           損失         利益
 178 7/8     178 1/4       62.50ドル
 176 7/8     178 1/4                    137.50ドル
 176 7/8     176           87.50ドル
 174 7/8     176                        112.50ドル
 175 1/4     176 5/8                    137.50ドル
 手数料および税金         135.00ドル
                         ――――――  ――――――
                          285.00ドル    387.50ドル
                    285.00ドル
                    ――――――
 この日の純利益……………………………… 102.50ドル
 このトレードは、2回間違った側にひっかかり、もたもたする間に手数料と税金で135ドルの出費があったことからすれば、大変巧みだと言ってよい。

トレンドを待つ

 トレードの成功は、基本的に、損失、手数料、利息、収入印紙料を減らすか、なくすことにかかっている。この点について、テープ解読者がもっと適切な判断をすべきだったかどうかを見てみよう。その最初のトレードは、インサイダーの買い付けらしきものに基づいてなされたようだった。トレンドはまだ形を成していなかった。テープ解読者は、178 3/4ドル以上のレベルでまとまった量の買いが入ったのを見て、しっかしりた支持のあとには当然反発が続くものと推理したのである。間違いは、はっきりと見定められるトレンドの出現の待たなかったことにある。もし買いの側に、売り物全部を消化して、相場を反転させるほどの力があったとした場合、その確認ができるまで待っていれば、もっとうまくやれたはずである。株価が半ポイントの範囲内に押し込められているのは、トレンドの反転ではなく、どちらかの方向に新たな動きが始まる停止点を意味するのである。

 仮に、テープ解読者が、停止点からの最初の鋭い動きに従っていたとすれば、1回目のトレードは買いではなく売りになっていたはずである。その場合、経費を含め89.50ドルにのぼる最初の損は防げたはずで、結果的に、その日の利益はほぼ倍になっていたはずである。

 2回目の損失を出したトレードには、テープの解読技術の中でも一番微妙な問題のひとつ、つまり反発とトレンドの進行とをどう見分けるかという問題がかかわっている。この区別を行うための良い方法は、株価が反転したときにどこまで戻すかを見て、下落幅の半分から2/3までの戻りがあれば通常の反発だと判断することである。下落過程がまだ終わっていないのなら、反発がそこまで達することはない。

単なる反発との区別

 ユニオンは、176 1/2ドルを付けたあとどんなふうに動いただろうか。176 5/8.3/4.177 1/4という取引があった。下落幅は、179 1/8ドルから176 1/2ドルまでの2 5/8ポイントだったのだから、これが反発だとすれば、少なくとも1 1/4ポイント戻して177 3/4ドルを付けるはずであった。ところが、そこまで到達しなかったのだから、下落過程はまだ終わったわけではなかった。売りポジションを持続しなければいけなかったのである。

 そのうえ、最後の出来値間の1/2ポイントのジャンプは、相場状況がまともでなかったことを示している。明らかに売り物がやんだ時期がしばらくあり、そのあとで、177 1/4ドルにあった100株の売り物にだれかが飛びついたのである。次の出来値が176 7/8ドルだったことからしても、この上げが実質のないものだったことは明瞭である。

 この反発の間、商いは小口ばかりだった。このこと自体、買い戻しをしてはいけないことを示している。買い付けにしろ、買い戻しにしろ、ともかく本格的な需要があったのなら、出来高の増加を伴う着実な値上がりが生じたはずである。それがなかったということは、今の時点から見て、176 7/8ドルでドテンをする理由はなかったということになる。

損失の分析

 自分だったら、そうした状況の中で実際にどう行動したかということを、はっきり言うのはだれにとっても非常に難しいであろう。だが、上に述べたような根拠に従って、この2回のトレードを避けることができたと仮定すれば、178 1/4ドルで空売りした100株は174 7/8ドルで買い戻しできたし、175 1/4ドルで買った株は176 5/8ドルで売ることができたはずである。つまり、この日の利益は421ドルになっていたのである。これで分かるように、自分の損失や過ちを分析すれば、将来の取引の役に立つという効果が期待できる。

 前にも説明したことだが、利益額は、トレーダーがまず利益ポイントを出せたかどうか、そして、そのポイントが損失ポイントを上回っていたかどうかにかかっている。この点で成功しているのなら、あとは、単に、売買単位を大きくするための資金をどれだけ集められるかの問題となる。

 取引口座の中身がどれだけ良くなっているかを調べる良い方法は、日付、株数、値段、利益、損失、そして手数料、税金、利息などの諸費用を帳簿につけておくことである。それぞれのトレードについて、純利益、純損失のポイント数と、口座全体として何ポイントの損益になっているかを示す累計ポイント数を記入しておくべきである。これらのポイント数の一覧を見れば、自分の能力の進歩について、だれも自分自身をごまかせなくなるはずである。人はどうしても、儲けたことは覚えていて、損したことは忘れてしまいがちになるものである。

損失の少なさ

 熟練したテープ解読者が出す損失ポイントは非常に小さいので、テープを使わない人や、でたらめなストップを置く人よりもずっと大きな単位でトレードすることができる。テープ解読者は、たいてい重要レベルや抵抗線かその近くで売買するので、めったに1/2〜1ポイントの損をすることがない。また、持っている銘柄のトレンドが突然変わっても、あっという間にそれに合わせることができる。さっき見たユニオン・パシフィックの取引での損失は(1回は5/8ポイントでもう1回は7/8ポイント)たぶん平均並みといっていいだろうが、わずか1/4、3/8、1/2ポイントのリスクでトレードできる場合も結構あるはずである。

 損する可能性が1ポイントほどもないからといって、テープ解読者はあまり頻繁にトレードすることはない。ときどきはじっと眺めているほうがいいのだ。精神を休ませ、判断力をとぎ澄ます。相場が動かない日は、何もしない時間がたくさんあり、それだけ有益であるといえる。

 テープ解読で大金が稼げるのは大活況の相場である。スイングが大きく、出来高が膨らめば、指標がはっきり読み取れ、経験を積んだトレーダーにとってかき入れ時となる。レディングやユニオンやコンソリデイティッドのような株が20、30、50ポイントと動くのは――金融界の大物による力まかせの相場は――大歓迎である。  この事実と関連して、これまで論じるつもりにしてきた問題のひとつを取り上げることにしよう。それは、毎日トレードを手仕舞うべきか、それとも、大きな利益を得るために、必要なら何日も何週間も、反落があっても株を保有し続けるべきかという問題である。

個人的な相違

 この問題に対する答えは、ある程度テープ解読者の気質にかかっている。その性格からして、小さなスイングを丁寧に追いかけて利益をものにし、徐々に修練を積んで、段階的に持ち高を増やしていくことができる人なら、そうした方法ですぐ目標に「到着」できるであろう。一方、積極的に手掛けたり手仕舞ったりすることができず、大きなチャンスをじっと待つのも平気で、大量の利益を目指し我慢して株を持ち続けられる性格の人も、「そこにたどり着ける」であろう。どちらのスタイルのトレードが平均的に優れた結果を生み出せるかを決めることは不可能である。それは個人的な資質に完全に依存しているからである。

 全体的にこの問題を見た場合に言えることは、これまで本シリーズで述べたような手法を理解しているテープ解読者は、もっぱら長期的スイングに基づいてのみトレードするのは難しいし、儲からないと感じるだろう、ということである。何よりも、20〜30回のチャンスのうちトレードするのは1回だけで、あとは見逃さざるを得なくなる。1〜3ポイントの小スイングは5〜10ポイントの変動を数の上で圧倒的に上回っているし、スイングが長期だろうが短期だろうが、かなりの比率で損することは変わらないのだ。

長期スイングによるトレード

 反落の度合い、抵抗レベルなどの指標の多くは、大きなスイングでも同じように有効だといってよい。それは、写真を引き伸ばしても、その輪郭は原版と変わらないのとまったく同じことである。  テープ解読は、基本的に、積極的で柔軟な心を持ち、素早く正確な判断ができ、極めて微妙な指標を鋭敏に感じとれる人に合った職業だといえる。一方、大スイングのトレードでは、細かな指標は無視して、その日の重大ニュースや、投資意欲へのその影響をかなり重視することが求められる。相当の損失を受け入れる覚悟が必要だし、いろいろな点で、小スイングのトレーダーとはまったく違った振舞い方が要求される。

 この問題について詳しく検討するにつれて、いっそう2つのトレード法は重ならないように思われてくる。長期スイングの手法は、休みなくティッカーに張りついていることがなく、その結果、距離をおいて相場を広くとらえられる人に向いていると言えそうである。

補助的なトレード

 毎日のトレードへの影響を避けることができるのなら、補助的な収益手段として長期的スイングのトレードをすることを禁じる理由は何もない。  例えば、レディングが144 3/8ドルから118ドルまで下落した先の例で、最初に買いのシグナルが出た時点で、実際に反転が生じたなら130ドル以上の反発が見込まれると考えて、長期スイング用に余分の株を買い付けてもかまわなかった。ストップ注文を出しておけば、リスクは限定されていたし、増えていく利益を確保していくこともできた。そして、その後の40ポイントの値上がり分のうち、どれだけでも手にできる可能性はあったのである。

 もうひとつ、スチールが、1908年11月の58 3/4ドルから2月の41 1/4ドルまで値下がりした例を見よう。当時の相場はスチール中心に展開しており、テープ解読者が手掛ける可能性は十分あった。この株で長期的な買いの計画を実行したとすれば、通常の株数に加えて少なくとも100株を余分に買って、その分のために40 3/4ドル辺りにストップを置いたはずである。少なくとも8 3/4ポイント(50ドルまで)の反発は当然期待できた。だが、相場が再び重大な下落の兆候を示さないかぎり、テープ解読者は、この長期目的の株について、ある意味で忘れてしまっていたはずである。スチールが60ドルを付けたとき、テープ解読者はまだこの分を保有していたかもしれなかった。  以上はただ2つの例を挙げたにすぎないが、そうした機会は毎年何十回もあり、テープ解読者の収入の少なからぬ部分を占めることになるはずである。しかし、そうしたトレードと通常のデイトレードとははっきり区別しておかなくてはならない。混同が生じれば、両方の良さが打ち消されてしまう。もし長期的トレードがデイトレードの判断の正確さを損なうようなことがあるのなら、即座にそれをやめなくてはならない。柵の両側でプレーできないのなら、一方の側だけにすべきである。

二重トレードの能力

 たやすく想像できることだろうが、43ドルのスチールを、100株は長期目的で、200株はデイトレード目的で買った場合、下落の合図があったときには、300株全部を手仕舞いたい気持ちになるはずである。ここでこそ、二重トレードを行う能力があるかどうかが試される。この時点で、こう自分に問いかけてみる必要がある。スチールが5ポイント上げる前に5ポイント下げると考えるべき十分な理由があるか。これは小さな反落なのか、それとも大きな下落なのか。まだ強気のスイングは続いているか。前回の下落のあと通常の反発があったか。こうした多くの問いかけに答えることで、その100株を持続するか、「大掃除する」かを決めることができるであろう。

 デイトレードを妨げないように、補助的なトレードを行うためには、飛び抜けて強い意志とさえわたった頭脳を必要とする。200株売って100株持続することはだれでもできる。だが、買い持ちしながら売り持ちしようとすれば――強気であると同時に弱気であろうとすれば――どうしても判断が歪むのではないだろうか。それが問題なのだ!

手を空にする有利さ

 本物のテープ解読者は、毎日午後3時には手を空にすることを好むものである。そうすれば、翌朝市場が開くときティッカーの前に座って、こう言うことができる。「私は株も予断も持っていない。最初の強力なシグナルに従うだけだ」。テープ解読者は、10日間に1回のトレードで1000ドル稼ぐよりも、同じ期間で毎日平均100ドルの利益を上げようとする。リスクはまず1ポイントまでいくことがない。少額でも平均して毎日利益が出るようになっていれば、100株の売買に必要な資金は1500〜2000ドルを超えないですむはずである。

 仮に100株の取引を60日行った結果、損失を差し引いた平均利益が1/4ポイント――1日につき25ドル――だったとする。この期間が過ぎたときには、投資資金は1500ドル増えているので、その後は200株単位でトレードできるようになる。次の30日でも同様の結果を得たとすれば、今度は300株単位でのトレードが可能になるわけで、それ以降も同じ調子で進んでいく。こういう数字を挙げたのは、単に、テープ解読の目標は、1回で大きな利益を得ることではなく、毎日ずっと少額の平均純利益を手に入れることにある、ということを、改めて強調したいからである。

ある出来事

 聞いた話だが、2カ月ほど前、ある西部出身の男がマガジン・オブ・ウォールストリート誌の事務所に入って来て、本誌の連載記事に心を動かされ、ただ自分のトレードの腕を試したいと思ってニューヨークにやって来たのだと言った。ふところには、自分がその仕事に向いているかどうかを調べるために、失ってもいいお金を1000ドル入れていた。  彼は、10株単位以下でトレードするように忠告され、特に2、3カ月間は実際のテープの動きを研究することにして、それが終わるまでは、絶対に売買しないように念を押された。

 最近知ったところでは、その男がまたやって来て、自分の経験の一端を話していったという。彼はどうしてもトレードがしたくてたまらず、証券会社を決めてから2、3日後に取引を開始したようだった。2カ月の間に、10株単位の取引を42回したが、どんなときも手元にあるのは20株以下だったそうだ。トレードではテープ解読のほかにも、当てずっぽうや秘密情報を使ったことを認めたが、だいたいはテープに従ったそうだ。  損はめったに1ポイントを超えることがなく、最大でも1 1/2ポイントだった。最高の儲けは3ポイントだった。たまには先導株以外の株にも手を出した。腕はまだ未熟だったし、鋭い判断のなかに、秘密情報や当てずっぽうが混じっていたりしたが、それでも、手数料などを差し引いて利益を残すことができた。

 この結果は、彼がトレードを行った相場状況を考えると、いっそう驚くべきものだった。純益は少額だったが、ともかく訓練期間の間に利益が出せたというだけで、祝福する価値は十分あった。

 自分では気づいていなかっただろうが、彼には、周囲の環境という、もうひとつのハンディキャップがあった。彼がトレードを行う事務所の中では、ほかの皆の声が耳に入り、行動が目に映った。大勢の人々が、ニュースやゴシップや自説を勝手におおっぴらに話していた。そういうこと全部の影響を受け、テープ解読から注意がそらされることも多かったに違いない。

損切り

 彼は、損切りの技法と、持ち高を増やさない技法を習得していたのだから、すぐにほかの知識不足も克服できることは太鼓判を押せる。幅広い活況ある相場に出合えば、日々の平均利益は次第に増えていくことであろう。  投機はビジネスである。だから習得することが必要になる。
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