2006年9月14日発売/A5判 上製本 592頁
ISBN4-7759-7074-7 C2033
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著者 マーセル・リンク
監修者 長尾慎太郎
訳者 山下恵美子
「悪いトレーダーはいない。悪いのはトレードである」とは言い尽くされた言葉ではあるが、事実でもある。悪いトレードを行わないようにすることも、勝つための条件のひとつである。そのためには、悪いトレードを見抜く目を養わなければならない。本書ではその方法を提示する。それと同時に、チャート、トレーディングのヒント、市場の各状況におけるトレーダーの実例をふんだんに取り入れ、トレーダーに自問自答すべき問題を随所で投げかけながら、市場を自分のものにするための知識とツールを余すことなく伝授する。これらの知識とツールを組み込んだ独自のトレーディングプログラムを手に入れたあなたの勝率は飛躍的に伸び、エリートトレーダーへの仲間入りも夢ではなくなるだろう。こんなパワフルな本がこれまでにあっただろうか。
「成功するトレーダーになるための魔法の公式など存在しない。ひとつだけあるとすれば、それが本書だ」――マイケル・スタインハルト(伝説のヘッジファンドマネジャー)『ヘッジファンドの帝王』著者
「成功するトレーダーのマインドセットをすべてのトレーダーに伝授する」
トレーディングで成功するためには莫大なスキルと知識が必要なのは言うまでもない。しかし、最も重要なのはマインドセットだ。勝者への道はマインドセットに始まり、マインドセットに終わるといっても過言ではない。優れたトレーダーは、優良株を買ったあと株価がいきなり下落したらどう考えるのか。たった1回のトレードによって自信をことごとく打ち砕かれ、破産へと追い込まれるといった事態を、彼らはどのように回避するのか。彼らだけが知るトレーディングの秘訣とは?
「トレードによってはリスクを取るだけの価値がなく、むしろやらないほうがマシなものもある」トレーディングで重要なのは、勝機があるときにだけ仕掛けることだ。そのために必要なのが充実したソフトウエアや機器であり、天底を付けたことを教えてくれる高確率シグナルである。日々のトレーディングで、そしてひとつひとつのトレードで、優れたトレーダーのように考えるためのノウハウをこれほど完璧に示してくれるものは本書以外にない。
「ひとつのことだけに長けていても成功するトレーダーにはなれない。重要なのは、トレーディングのあらゆる局面で自分の持てる力を出し切ることができるかどうかである」
著者が長年にわたっていろいろなシステムを渡り歩き、試行錯誤を重ねた末にたどり着いた結論を集約したものが本書である。何がうまくいき、何がうまくいかないのか。そして、それはなぜなのか。著者マーセル・リンクが忍耐力を身につけ常に勝てるトレーダーになるまでの道のりを赤裸々に綴ったサクセスストーリーを今あなたにお届けする。
原書『 High Probability trading : Take the Steps to Become a Successful Trader』
著者/マーセル・リンク(Marcel Link)1991年よりプロのトレーダーとしての活動を開始。リンクフューチャーズ・ドットコムの創始者であり、TradeStationのコンサルタントとしても活躍。リンクフューチャーズ・ドットコムのウエブサイト(http://www.linkfutures.com/)では、トレーディングコミュニティーをはじめ、日々の市況解説、テクニカル分析のノウハウ、トレーディングシステムの開発、トレーニング、セミナー、マーケティングなど、トレーダーに不可欠な各種情報を幅広く提供している。著者へご意見・ご感想は、[email protected] まで。 |
監修者/長尾慎太郎(ながお・しんたろう)
東京大学工学部原子力工学科卒。日米の銀行、投資顧問会社などを経て、現在はヘッジファンドマネジャー。訳書に『魔術師リンダ・ラリーの短期売買入門』『タートルズの秘密』『新マーケットの魔術師』『マーケットの魔術師【株式編】』『デマークのチャート分析テクニック』(いずれもパンローリング、共訳)、監修に『ワイルダーのテクニカル分析入門』『ゲイリー・スミスの短期売買入門』『ロスフックトレーディング』『間違いだらけの投資法選び』『私は株で200万ドル儲けた』『バーンスタインのデイトレード入門』『究極のトレーディングガイド』『投資苑2』『投資苑2 Q&A』『ワイルダーのアダムセオリー』『マーケットのテクニカル秘録』『マーケットのテクニカル百科 入門編・実践編』『市場間分析入門』『投資家のためのリスクマネジメント』『投資家のためのマネーマネジメント』『アペル流テクニカル売買のコツ』(いずれもパンローリング)など、多数。
訳者/山下恵美子(やました・えみこ)
電気通信大学・電子工学科卒。エレクトロニクス専門商社で社内翻訳スタッフとして勤務したあと、現在はフリーランスで特許翻訳、ノンフィクションを中心に翻訳活動を展開中。主な訳書に『EXCELとVBAで学ぶ先端ファイナンスの世界』『リスクバジェッティングのためのVaR』『ロケット工学投資法』『投資家のためのマネーマネジメント』(以上、パンローリング)、『FORBEGINNERS シリーズ90 数学』(現代書館)、『ゲーム開発のための数学・物理学入門』(ソフトバンク・パブリッシング)がある。
監修者まえがき 献辞 はじめに 高確率トレーディングとは何か 彼らはなぜ優れているのか 本書について 私自身について 私のトレーディングキャリア
第1章 トレーディングの授業料 学習期間 つもり売買も役には立つが、つもりは所詮つもりで現実とは異なる トレーディングの授業料 過ちから学ぶ 悪い習慣を助長するな 「最初から儲けるのだ」という呪文 貴重な資産を減らすな 小さく考えよ 破産 決意が必要 日記をつける 日記には何を書けばよいのか 日記の見直し プロのトレーダー トレーニングプログラム 個人的な意見 優れたトレーダーになるためには
第4章 ニュースでトレードする ファンダメンタリスト対テクニカルアナリスト 何かを知り得ても、あなたが最初ということはまずない 噂で買って、事実で売る 下がるべきなのに下がらないのは上昇のサイン 良いニュース? それとも悪いニュース? 市場はやりたいことをやる 予想外のニュースと予想どおりのニュース ファンダメンタルズを最大限に活用する 自分の考えを変える柔軟性を持て 客観的になれ 優れたトレーダーになるためには
第5章 複数の時間枠でチャンスを広げよ 複数の時間枠を見る 短期展望主義対長期展望主義 複数の時間枠――視野を広げよ 全体像をつかめ トレードのモニタリング――支持線および抵抗線の位置の確認とストップを入れる位置の決定 トレーディングには自分のスタイルに最も合った時間枠を用いる 長い時間枠を使うことのメリット トレードのチェック――同じインディケーターまたはシステムを複数の時間枠に適用 異なる時間枠を増し玉に利用する それぞれの時間枠における市場の振る舞いを知る 優れたトレーダーになるためには 第6章 トレンドでトレードする トレンドとは何か トレンド トレンドライン チャネル 大局をとらえる トレンドラインのブレイク 追っかけはやるな 相場に逆らうな トレンドフォロー系インディケーター 移動平均線 ADX リトレイスメント(押し・戻り) トレンドの測定 優れたトレーダーになるためには 第7章 オシレーターを使う オシレーター オシレーターの役割り オシレーターの基礎 ストキャスティックス RSI MACD オシレーターを使ってトレーディングのタイミングを計る オシレーターの間違った使い方 オシレーターによるトレーディング トレンドを利用したトレーディング 複数の時間枠 優れたトレーダーになるためには 第8章 ブレイクアウトと反転 ブレイクアウト――勢いのある側でトレードする ブレイクアウトはなぜ発生するのか ブレイクアウトのタイプ レンジ相場のブレイクアウトパターン ブレイクアウトによるトレードでしてはならないこと ブレイクアウトによる高確率トレーディング ブレイクアウト発生を出来高で見る カウンタートレンドラインのブレイク 高値の更新 反転 相場はなぜ反転するのか 動きの大きさを測定する 仕掛けのタイミング 高確率ブレイクアウトと低確率ブレイクアウトの違いを見分けることの重要性 典型的なブレイクアウトシステム 優れたトレーダーになるためには |
第9章 手仕舞いとストップ 損切りは素早く、利食いは遅く 早すぎる手仕舞い 利食いは遅く 手仕舞い戦略 仕掛けた理由が変わったら手仕舞え 重要なのは負けトレードであって、勝ちトレードではない ストップは絶対確実なセーフティネットではない ストップの間違った使い方 ストップの種類 複数の時間枠による手仕舞いタイミングの微調整 ストップがヒットする理由 ストップと反転 ストップとボラティリティ 標準偏差の利用 優れたトレーダーになるためには 第10章 高確率トレーディング ネコのソフィー 高確率トレーダーになるためには プランを持つ 典型的な高確率トレーディングシナリオ トレードする明確な理由を持て 手を広げすぎるな 辛抱強く良いトレーディング機会を待て リスクとリワード ポジションサイズ 市場の動きを把握する 低確率トレーディング 優れたトレーダーになるためには
第11章 トレーディングプランとゲームプラン トレーディングプランとは何か トレーディングプランの作成 プランはなぜ必要なのか トレーディングプランを構成する要素 ゲームプラン 規律 優れたトレーダーになるためには 第12章 システムトレーディング システムとは何か トレーダーはなぜシステムを使うべきなのか システムは買うべきか、自分で作成すべきか どんなシステムを選ぶべきか 自分はどういったタイプのトレーダーなのか いろいろなトレーディングスタイルとシステム 相場のさまざまな状態への適応 ストップと手仕舞い 複数のシステム システマティックトレーダー対自由裁量的トレーダー よくある過ち サンプルシステム 優れたトレーダーになるためには 第13章 バックテストについて なぜバックテストが必要なのか トレーダーがバックテストでよく犯す過ち バックテストの方法 システムの評価 手数料とスリッページ 優れたトレーダーになるためには 第14章 マネーマネジメントプラン ギャンブラー マネーマネジメントプランを持つことの重要性 マネーマネジメント――勝つトレーダーが共通して持っているもの マネーマネジメントの目的 貴重な資産を守れ マネーマネジメントプランの構成要素 リスクレベル 取るべきリスク量を知る 直近のトレード結果に左右されるな 十分なトレード資金を準備せよ 小口口座 自分の戦略は正の期待値を持っているか 優れたトレーダーになるためには 第15章 リスクパラメータの設定とマネーマネジメントプランの作成 十分な資金があるかどうかの確認 資力に見合ったトレードを行う ディフェンスが第一 リスクパラメータとマネーマネジメントパラメータの設定 マネーマネジメントプランに含むべき項目 マネーマネジメントプランの作成 マネーマネジメントプランに含むべき項目例 優れたトレーダーになるためには
第16章 規律――成功へのカギ 規律は成功へのカギ ふさわしい時期が来るまで待つという規律を持つ オーバートレードしないという規律を持つ トレーディングシステムを開発・バックテストし、それに従うという規律を持つ トレーディングルールを設定してそれに従うという規律を持つ トレーディングプランとゲームプランを作成して、それに従うという規律を持つ 事前に下調べをすませておくという規律を持つ マネーマネジメントパラメータに従うという規律を持つ 損失限界を設けるという規律を持つ トレードを手仕舞うという規律を持つ 勝っているトレードは長く保有するという規律を持つ 過ちから学ぶという規律を持つ 感情をコントロールするという規律を持つ 自分を律することの難しさ 優れたトレーダーになるためには 第17章 オーバートレーディングの危険性 トレードを選べ トレーディングは安くはない 焦点を絞れ なぜオーバートレードするのか 感情によるオーバートレーディング 市場環境が生み出すオーバートレーディング 優れたトレーダーになるためには 第18章 内面を鍛えよ――常に冷静であれ 「もしも」 常に冷静であれ 心の葛藤 休みをとる 幽体離脱体験 悪い習性 冷静さを取り戻す 優れたトレーダーになるためには |
著者と同じく、ほとんどの個人投資家にとっては、トレードの目的は利益を上げることにある。目標とする金額の多寡に違いこそあれ、トレードは経済的な豊かさを求めるための手段である。だからこそ、私たちは情報を集め、手法を学び、分析・研究を行って、常に向上を怠らないのである。そして、これらの行為は通常は既存の技術や知識の習得・発展という形をとって行われるために、優秀な先達のモデリングのプロセスであるとも言える。つまり平たく言えば、「上手な人、やり方」をいかにうまくコピーできるか、そして、「下手な人、やり方」の轍を踏むのをいかに避けるかに、成否のかなりの部分がかかっていると言ってもよいだろう。
ところで、私は仕事柄、個人投資家、機関投資家を問わず、多くのトレーダー、ファンドマネジャーに会ってきた。このなかには極めて少数ながら「天才」が存在する。香港でヘッジファンドマネジャーをしている知人もその一人である。若いころは世界的なアスリートであった彼は、潜在意識がマーケットの「何か」と繋がっているらしく、価格が大きく動く前には明確にそれを感じるという。そしてその感覚は、彼が現役の選手であったころ、試合中に時折感じたものと同種のものだという。
その一方で、特殊な才能を持たずして“Financial Freedom(経済的な自由)”に到達した個人投資家を私は何人も知っている。彼らは各々職業を持ちながら、地道にコツコツとトレードの研鑽を積み、利益を出せるトレーダーへの閾値をある日ついに超えた人たちである。そして自分にとって得意な相場が来たときに一気にその努力を花開かせ、成果を手に入れたのである。
さて、ここで私たちがコピーすべきは後者の人たちであろう。天才のトレードをコピーすることは難しい。香港の知人が運用するファンドのパフォーマンスは実際とても素晴らしく、彼は自分の感覚をなんとか一部だけでも定式化し、コンピューター上で走るアルゴリズムに落とせないかと考えて、専属のシステムエンジニアと苦闘中であるが、本人をもってしてもそのコピーを作り出すことは困難を極める。 逆に、多くの「普通の人々」が通り、成功した道程をあとからたどることは、簡単ではないかもしれないが、手堅いやり方である。著者の説く“High Probability Trading”とはまさにそういうアプローチなのである。本書に従って進むことで、読者が“Financial Freedom”を手に入れられるのは明日、明後日のことではないかもしれない。だが、それほど遠い未来の話でもないと思う。 最後に翻訳を担当された山下恵美子氏、編集・校正を担当された阿部達郎氏、パンローリング社社長である後藤康徳氏に心から感謝の意を表したい。
2006年8月
長尾慎太郎
負けるトレーダーの割合の高さを考えると、これはもう偶然の一言ではすまされない。敗者には共通する何らかの原因があるはずである。本書ではその原因を探っていく。勝つトレーダーは負けるトレーダーとは行動様式が根本的に異なる。つまり、成功するトレーダーが利益を上げ続けることができるのは、トレーダーが陥りやすい落とし穴を避けながら高確率トレードを行うからである。これが本書のテーマである。そしてトレーディングを成功させる方法を学ぶのと同じくらい重要なのが、負けない方法を学ぶことである。このことがよく分かっていないトレーダーは、敗者を脱して勝者となるのは不可能だ。トレーダーの弱点ばかりを挙げても始まらない。本書では、トレーダーが犯しやすい過ちを避ける方法を示すとともに、成功するトレーダーならば同じ状況でどんなリアクションを取るかについても提示する。成功するトレーダーのマインドセットをすべてのトレーダーに伝授することが本書の狙いである。
勝てるトレーダーになるのに早道はないが、勤勉さ、経験、資金、規律は最低限の条件と言えるだろう。ほとんどの人が損をするトレーディングの世界とはいえ、確率に基づくトレーディング方法を学ぶことで、普通のトレーダーでも勝つトレーダーになるのは夢ではない。今でこそベストトレーダーに名を連ねる人々も、そのほとんどは最初は失敗続きだった。だが、そこから見事に立ち直ったからこそ今がある。もちろんなかには最初から幸運に恵まれた人もいるだろう。しかしトレーディングは一種の学習プロセスであり、マスターするには時間がかかる。その学習プロセスから学ぶべきことは、高確率の状況と低確率の状況とを見分けられるようになることである。このフィルタリング能力が身につけば、確率の低いトレードは排除し、確率の高いトレードだけに集中して取り組むことができるようになる。
私がこれまでに読んできたトレーディングの本は、トレーディングはとても簡単なもので、その本さえ読めばだれでも簡単にトレーディングができるようになる、と思わせるようなものばかりだ。しかしトレーディングはそんなに甘いものではない。書籍も参考にはなるだろうが、経験に勝る教師はない。トレーディング力を向上させる最良の方法のひとつは、過去の過ちを正すことである、と私は考えている。トレーダーにトレードの方法を教えるのはいとも容易く、最も低いリスクで最高のリワードが期待できるトレードが最も成功する確率の高いトレードであることを教えるのも簡単だ。しかし、1000ドルの損失を出すことがけっして誇張ではないことを教えてくれる本はないし、損失を心理的にどう処理すればよいのかや、感情がトレーディングにどんな影響を及ぼすのかは、本を読んだだけでは分からない。本物の金を危険にさらして初めて、金を失うことの痛みを実感し、有頂天になれば軌道を外すおそれのあることが体得できるのだ。つもり売買もまったく役に立たないわけではないが、やはり実際の金をリスクにさらさなければ感情やリスクの扱い方を学ぶことはできない。人はつもり売買では自らのルールに忠実に従うが、本物の金を扱うようになった途端にルールを無視し始めるものである。
トレーディングを始めて最初の2〜3年は過ちの連続だ。しかし、これらの過ちはとても貴重なものでもある。トレーダーは自分のやっていることが間違っていることを認識して初めて、二度と同じ過ちを繰り返すまいと全神経を集中させるようになるからだ。優れたトレーダーになるための第一歩は、悪いトレードをしないようにすることである。負けから勝ちに転じたトレードでも、リスク・リワード比率が悪ければ良いトレードとは言えない。またトレードによってはリスクを取るだけの価値がなく、むしろやらないほうがマシなものもある。トレードを成功させるためには、あくまでリワードに対するリスクが低いトレードだけを行うことが重要である。
本書では重要なポイントは折に触れ繰り返し強調するが、これは編集者にボリュームのある本にするように頼まれたからではない。物事は繰り返し言われるほど脳裏に深く刻み込まれるものだ。本書を読み終えるころには、あなたはいろいろなタイプの投資機会を区別できるようになっていると同時に、勝てるアプローチも身についているはずだ。トレーディングをやってはいるが損ばかりしてきた人にとって、本書は、その理由を教えてくれるだけでなく、これまで犯してきた過ちを是正する方法も提示してくれるものだ。トレードすべきときとすべきではないときも分かってくるだろう。トレーディングプラン、ゲームプラン、マネーマネジメントプランを立てることの重要性を認識させ、その方法を提示することも本書の重要な狙いだ。プランなくしてトレードすべからず、と言っても過言ではない。プランといっても特に手の込んだものを作る必要はないが、トレーディングにプランは不可欠であることを忘れてはならない。
私は株式と商品の両方のトレード経験を持つため、本書では両方のトレードについて言及していく。また、市場は株式市場と商品市場の両方を含むものと考えていただきたい。当初は商品トレーダーにだけ焦点を当てるつもりだったが、株式トレーダーにとっても役立つ本になるように内容を拡充した。トレードするものがIBMであれヤフーであれ、ポークベリーであれS&P500先物であれ、トレーディングであることに変わりはなく、基本はすべて同じである。もちろん、証拠金やレバレッジ、用いるソフト、期限のあるなし、サーキットブレーカー制度のあるなし、といった違いはあるが、大概はひとつのものをトレードできればほかのものもトレードできるものである。本書はやや短期トレードに偏ってはいるものの、デイトレーダーかポジションテイカーかとは無関係に、初心者からベテラントレーダーまですべてのトレーダーに役立つ内容になっている。
高確率トレーディングとは何か
本書でいう高確率トレーディングとは、リスク・リワード比率が低く、あらかじめ決められたマネーマネジメント・パラメータで期待値が正になることがバックテストで確認されているトレードのことをいう。ベストトレーダーたちは勝算ありと見込んだときにだけトレードを行う。市場が開いているからトレードするのではない。彼らの目的は金を儲けることであり、刺激が得たいからではない。高確率トレードになるのは、大概はメジャートレンドの方向にトレードした場合のみである。例えば上げ相場にあるとき、トレーダーは押し目を待ち、支持線より下げないと確信したところで仕掛ける。押し目は大きなトレンドの中で発生する小さな波にすぎない。このとき、売れば儲かる可能性があったとしても、それは低確率トレードなので行うべきではない。高確率トレーダーたちは「損切りは早く、利食いは遅く」を確実に実践する人々だ。損切りをためらって500ドルもの損失を出しながら、利食いが早すぎて利益がわずか200ドルではゲームに勝てるはずがない。利を伸ばすことも大事だが、それと同じくらい大事なのは利食いのタイミングを知ることである。悪いトレーダーの多くは、利益が出ているトレードの手仕舞いタイミングを知らないために、あるいは手仕舞いルールを持たないために、勝ちトレードをそのまま放置して負けトレードに転じさせてしまうことが多い。手仕舞いは仕掛けよりも重要だ。手仕舞いの方法を知っているかどうかで勝者と敗者は分かれると言ってもよい。たとえでたらめに仕掛けたとしても、正しい手仕舞いの方法を知っているトレーダーはおそらくは勝者になるだろう。
トレンドの方向にトレーディングするのが最も確実な方法だが、正しいパターンが存在し、間違ったときには素早く軌道修正できるのであれば、天井や底を当てるというやり方も高確率トレードにつながることがある。トレンドの終焉を当てようとしても大概は外れるものだが、そんなときは自分の過ちを素早く認めることが大切だ。万一天井や底を当てることができればかなりのリワードが見込めるため、そういったトレードが積もり積もればパフォーマンスは上がる。要するに、トレーディングスタイルは問題ではないのである。規律を持ち、しっかりしたトレーディング戦略とマネーマネジメントプランがあれば金は稼げるのである。 高確率トレーダーになるためには、まずはトレーディングプランを立てることが重要だ。トレーディングプランには、トレーディング戦略と、そしてもっと重要な、リスク管理が含まれる。本書では正しいトレーディングプランを立てるためのスキルとツールを余すことなく紹介する。トレーディングスタイルは人によって異なるため、だれにでもフィットする完璧なトレーディングプランはない。したがって、自分のトレーディングスタイルと心理に最もよくフィットする自分のプランを立てることが重要だ。プランができたら峠はほぼ越えたと考えてよいだろう。しかし残念ながら、プランを立てずにいきなりトレーディングを始めてしまうトレーダーが多いのが現実である。
彼らはなぜ優れているのか
稼げるトレーダーは、市場が開いているときは言うまでもなく、市場が閉じている時間帯にも準備に余念がない。彼らは市場が閉じているときに、これからトレードする市場のことを調査し、どういったときにどういったアクションを取るべきかを研究する。市場が機会を与えてくれるまで辛抱強く待ち、見込み違いのときには素早く手仕舞うことができるのは、こういった下準備の賜物だ。彼らはトレンドの形成された市場や銘柄を探し、押しや戻りを待って仕掛ける。相場を先読みしようとはしない。つまり、市場より自分たちのほうが優れているといった思い上がった考えは持たないということである。市場が与えてくれるものをもらうだけである。また、自分の感情を完璧にコントロールし、常に集中し、手を広げすぎたりオーバートレードすることもない。
本書では私自身の経験も含め、良いトレーダー、悪いトレーダーの実例を多数紹介する。最初はひどい成果しか出せなかったトレーダーが素晴らしいトレーダーに転じたケース、失敗から何も学ぼうとしないトレーダーのケースなど、これまで私はさまざまなトレーダーたちを見てきた。こういった実例を通じて、やるべきことと、やってはいけないことを分かりやすく説明していきたいと思う。彼らに対する配慮のため、実名を伏せる場合もあるのでご了承いただきたい。何を隠そう、実はこの私自身最初はひどいトレーダーだった。負ける原因を生み出した私の悪習をはじめ、私が見てきた他人の悪習についてもすべて紹介する。私は昔から市場の方向性を見る目は持っていた。しかし自分自身を成功から遠ざけるさまざまな問題点も少なからず抱えていた。こういった弱点を克服し、勝算があるときしかトレードしてはならないことが分かってくると、私のトレーディングパフォーマンスは急激に好転し始めた。私が負けトレーダーから一転して勝ちトレーダーになることができたのは、良いトレーダーと悪いトレーダーを注意深く観察し、成功するトレーダーの習性を見習い、自分を含め悪いトレーダーに共通する悪習を避けるようにしたからである。また、自分自身の負けトレードを分析し、そこから教訓を導き出した。結局、負けることはだれにとっても苦痛なのである。うっかり熱いオーブンを触ってやけどを負った子供は、二度の熱いオーブンには触らないはずだ。つまり、痛みを良い教訓にするわけである。私が行ったことのなかで大いに役立ったことがある。あるひどいトレーダーの隣に座って、彼をじっくり観察したのだ。彼は何度も何度も同じ過ちを繰り返した。私は自分自身が彼といくつかの共通点を持っていることに気づき、それを直ちに変えなければならないことを悟った。つまり、悪いトレーダーを観察することで、自分自身の欠点をはっきり認識することができたわけである。 本書では、成功するトレーダーになるためには何が最も重要なのかについて明らかにしていく。トレーディングを成功に導くために知っておかなければならないトレーディングの心得から、自己を律する方法、トレーダーが必ずぶつかる心理的な壁を克服するための方法まで、トレーディングに必要なあらゆる要素をカバーしているのが本書の特徴だ。もちろん、テクニカル分析やファンダメンタル分析、ゲームプラン、トレーディングプラン、リスクマネジメントプランの作成と使用方法、システムの構築とバックテストの方法についても詳しく議論する。本書を通読することで、負けると分かっている状況でのトレードを避け、勝算があるときだけトレードすることの重要性が分かってくるはずである。各章の終わりには、「優れたトレーダーになるためには」と題したミニコーナーを設けている。それに続き、やるべきこと、やってはいけないことをリストアップし、最後に自問自答コーナーを設けた。正しいことをしているかどうかを自分自身に問うことで、自分の強みと弱みを正しく認識し、勝てるトレーダーに一歩ずつ近づいていってもらいたい。
私自身について
トレーダーがやってはいけないことの生きた手本のような存在――。それが昔の私である。トレーディングで損をする方法なるものがあるのであれば、おそらく私はそれをやっていたはずである。トレーディングを始めた1990年以来、7年間負けの連続だった。その原因を何とか究明したい、究明しなければ、というのがその間の私の変わらぬ思いだった。トレーディングの世界に身を置くこと14年。アシスタントからフロアトレーダー、個人向けブローカー、トレーダーとさまざまな職種を経験したおかげで、トレーダーが犯すありとあらゆる過ちを見てきたし、自分でもしてきた。立場上、成功しているプロのトレーダーにも、まったく見込みのないトレーダーにも直に接れる機会に恵まれていたため、彼らの資質の違いを目の当たりにすることができた。同じトレードを行っても、良いトレーダーは金を儲けることができるのに対し、悪いトレーダーは儲けられない。顧客の1人であった証券会社の厚意により、トレーダーたちを定期的に観察する機会を得た私は、その観察を通じて一般トレーダーが損ばかりする理由を知るに至った。皮肉にもこの観察を通じて私は自分自身が悪いトレーダーと悪習を共有しているという事実を知った。そしてこの観察の最大の成果は、成功するためにはトレーディングスタイルを変えなければならないことを教えられたことである。例えばオーバートレードだが、オーバートレードしていたほかのトレーダーが例外なく損をしていることに気づくまで、私は自分自身のこの最大の愚行に気づかなかった。トレードを選ぶ眼を持ったトレーダーたちは着々と利益を上げていた。本書では、私が稼げるトレーダーに転身するまでの過程を紹介することで、何人も強い意志さえあれば優れたトレーダーになることは不可能ではないことを示していく。悪習を断ち切ることは容易なことではない。しかし優れたトレーダーになるための第一歩は悪習を断ち切ることであることをしっかり覚えておいていただきたい。
私のトレーディングキャリア
1987年、証券会社で短期間勤務した後、ニューヨーク・マーカンタイル取引所のフロアで原油オプションのアシスタントを担当。数年後、ようやく貯め込んだ3万ドルを元手に、NYFE(ニューヨーク先物取引所)の会員権を取得してドル指数先物のトレーディングを開始する。資金不足のため、たった1回の失敗で資金の半分を擦るまでに、ものの数カ月もかからなかった。ピットからのトレーディングはもはや不可能だったため、私は別のトレーダーとパートナーシップを組むことにした。私たちは経験豊富な数人の元フロアトレーダーたちとブローカーのオフィスの一角を借りてトレーディングを始めた。チャートの読み方を覚えたのも、システムを作成するようになったのもここでである。 1995年から1997年まで、トレーディングの仕事を一時中断して大学院に進学。卒業と同時にディスカウントブローカー、リンク・フューチャーズ(Link Futures)を立ち上げた。当時、先物のオンライントレーディングはようやく端緒についたばかりで、オンライントレーディングサービスを提供する会社も比較的少なかった。我がリンク・フューチャーズは格安の手数料でサービスを提供し、トレーダーのためのトレーディングルームも準備した。しかしその後、オンライントレーディングがブームになり大手証券会社が参入すると手数料の割引合戦が繰り広げられるようになり、私は再び資金難に陥った。つまり、大手に対抗するべく広告を打って事業を拡大する資金がなかったというわけだ。しかし、悪いことばかりではなかった。顧客たちの犯す間違いを反面教師とすることで、私のトレーディングパフォーマンスはグングン向上し始めたのである。 2000年3月、株式トレーダーのポジションをオファーされたとき、迷うことなく受け入れた。ブローカー時代に比べると私のトレーダーとしての腕は格段に向上していたため、自己勘定の株式トレーダーになることを決めた。自分の仕事を好きだと言える人は滅多にいないと思うが、私は心からそう言える。
最後に一言――トレーダーを指すのに「彼」という代名詞を使っているが、これは単純化のためであって、私が男女差別主義者ではないことを断っておきたい。トレーディングはかつては男の仕事だったが、今では優秀な女性トレーダーも少なくない。ちなみに私のリンク・フューチャーズでのパートナーは女性で、しかも非常に才能のあるトレーダーだった。
読者のみなさんにとって本書が楽しい読書になってくれれば、これ以上の喜びはない。
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