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チンギス・ハンとモンゴル帝国の歩み

チンギス・ハンとモンゴル帝国の歩み

2019年10月発売/四六判 480頁
ISBN978-4-7759-4216-1
定 価 本体各2,200円+税

著 者 ジャック・ウェザーフォード
監 修 星川淳
訳 者 横堀冨佐子



帝国の息の根を止めた災厄

モンゴル帝国の繁栄は軍事力ではなく、
交易拡大・文化交流だった。

チンギス・ハン率いるモンゴル軍は25年間で、ローマ帝国が400年かけて征服した以上の土地と人びとを配下におさめた。

それは13世紀においてもっとも人口密度の高い諸文明を征服したのだ。打ち負かした人びとの数、併合した国の数、占領した土地の総面積、いずれをとっても、チンギス・ハンは征服者として歴史上のあらゆる追随者を2倍以上引き離す。最盛期のモンゴル帝国は、アフリカ大陸に匹敵する30億ヘクタールにおよんだ。今日の世界地図でいえば、チンギス・ハンの版図は30か国、30億人以上を擁する。シベリア・インド・ベトナム・朝鮮半島からバルカン半島までが含まれる。これだけの偉業を百万人のモンゴル民族で果たしたのは驚異的なことだ。

モンゴルの栄華はすぐれた軍事力のみによるものではなく、むしろ科学を活用した賜物だった。モンゴル人は戦好きではあったが、彼らの興隆は「余暇を哲学の諸原理探究に注ぎ込んだ」ためだった。

モンゴル人の来襲を受けたほとんどすべての国では、見知らぬ蛮族による征服当初の破壊とショックは、たちまち未曾有の文化交流ブームと、交易拡大と、文明開化とに取って代わられた。モンゴル人たちは、商品や産物を活発に流通させ、それらをうまく組み合わせて、まったく新しい製品や前例のない発明を生み出すことに力を注いだ。

モンゴル軍は、当時のヨーロッパが中国やイスラム諸国と比べおおむね貧しかったことに落胆し、略奪行為に及ばなかった。そのため、最小限の被害で、新しい技術と知識を得た。商業の生み出す富がルネサンス(文芸復興)をもたらし、そのなかでヨーロッパはみずからの伝統文化を再発見した。もっとも重要なことは、印刷技術と火器と羅針盤と算盤を東洋から伝えたことだろう。

本書は3部構成になっている。

第1部は、チンギス・ハンが草原で権力の座に上りつめる物語と、1162年の生誕から1206年に全部族をまとめてモンゴル帝国を打ち立てるまで、彼の人生と性格を形づくったさまざまな力を取り上げる。

第2部は、チンギス・ハンの孫たちが争い合うようになるまで五世代続いた「モンゴル世界大戦」(1211〜1261年)を通じ、モンゴル人が歴史の表舞台に登場する経緯を追う。

第3部は、そののち百年の平和と、現代社会につながる政治的・商業的・軍事的構造の基礎を築いた「グローバルな目覚め」(1262〜1962年)を掘り下げる。

チンギス・ハンとモンゴル帝国についての暗部を解明した本書の魅力は色あせることなく、読み語り継がれていくことだろう。


■著者紹介

ジャック・ウェザーフォード(Jack Weatherford)
先住民文化研究の第一人者であり、長年にわたってミネソタ州マカレスター大学の人類学教授を務めた。本書により、ニューヨークタイムズのベストセラー作家となる。その他にも『アメリカ先住民の貢献(Indian Givers)』『How Native Americans Transformed the World』『The Secret History of the Mongol Queens』 『The History of Money』など、多くの名作を世に出した。現在は、米国とモンゴルを行き来する生活をしている。

監訳者紹介

星川 淳(ほしかわ じゅん)
1952年、東京生まれ。作家・翻訳家。82年より屋久島在住。国際環境NGO事務局長、市民活動助成基金代表理事など歴任。著書に『魂の民主主義』(築地書館)、『屋久島水讃歌』(南日本新聞社)、『地球生活』(平凡社ライブラリー)、共著に坂本龍一監修『非戦』(幻冬舎)、訳書にB・E・ジョハンセン他『アメリカ建国とイロコイ民主制』(みすず書房)、P・アンダーウッド『一万年の旅路』(翔泳社)、U・K・ル=グィン『オールウェイズ・カミングホーム』(平凡社)、監訳書にA・V・ヤブロコフ他『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』(岩波書店)ほか多数。http://hoshikawajun.jp/

+訳者紹介
横堀 冨佐子(よこぼり ふさこ) 東京大学文学部英文学科卒。共訳書にドミニク・シェラード『図説ウィリアム・シェイクスピア』(ミュージアム図書)、翻訳協力にノーマン・デイヴィス『ヨーロッパ』(共同通信社)、ルイザ・ヤング『ハート大全』(東洋書林)などがある。


第10章 帝国の息の根を止めた災厄

14世紀に世界で2500万人もの人が犠牲になった伝染病ペストは、
実はモンゴル帝国の貿易拡大とともに世界に広がった疫病でした。
本書の375ページ「帝国の息の根を止めた災厄」に当時の様子について描写があります。
1332年、桃源郷とも謳われたモンゴルの夏の都、上都の離宮は大混乱に陥り、
人々は恐怖と苦痛になすすべもなかった。(中略)
人々を脅かしていたのは外国の軍隊の侵攻でもなければ暴動でもない。疫病である。
この病気は「黒死病」(腺ペスト)として知られるようになった。

複数の記録によると、この病気は華南に端を発し、モンゴルの兵士が北に運んだという。
病気のバクテリアはノミの体内に棲息する。
ノミは南からの食べ物や貢物の輸送とともに、ネズミに取り付いて移動する。

1331年には華北地方の人口の90%が死亡した。
中国は13世紀の初頭には約1億2300万人の人口を擁していたが、
14世紀の終わりにはわずか6500万人に減少した。

都市が疫病の理想的なすみかだとすれば、船の閉鎖された環境は疫病の理想的な培養器だった。

ペストはローマの没落以降ヨーロッパを支配してきた社会秩序を事実上崩壊させ、
ヨーロッパ大陸を危険な無秩序状態に追い込んだ。

いたるところで、脅えきった人びとは病気が入ってきたのを外国人のせいにし、
国際交易はさらに危機的状況に陥った。
(交易で東洋とつながりのあったユダヤ人が目の敵にされた)

国民から孤立し、疫病の蔓延に対して有効な手を打てない中国のモンゴル人皇帝は、
チベット僧の醸し出す霊的な世界に逃げ込んでいく。

紙幣に対する信頼が落ちてその価値が下落し、銅貨・銀貨の価値を押し上げることになった。
インフレーションが激しく巻き起こり、1356年には紙幣は事実上まったく無価値なものになっていた。

(以上、本書より抜粋)


■読後の感想

チンギス・ハンについてはいくつかの著書を読んだことはありますが、本書で彼の生い立ち、モンゴル帝国の特異性が明確に理解できました。訳も流れるように読みやすく、大変よかったです。

(S.M様 東京都 80代)

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