『財産を失っても、自殺しないですむ方法
マーク・リッチーのトレーディングバイブル』
著 者 マーク・リッチー
監修者 長岡半太郎
訳 者 山口雅裕
2021年12月発売/四六判 318頁
定価 本体 2,000円+税
ISBN978-4-7759-7293-9 C2033
リッチーは読者に2つの選択肢を示している。プロのような負け方をしながらトレードを続けるか、初心者のような負け方をしてトレードをやめてしまうか、だ。また、裕福な人々とほかのすべての人々との格差を自分が広げているという罪悪感に悩まされているキリスト教徒のために各章の最後に1節を設けている。
また、リッチーは原書のタイトルを『財産を失っても、自殺しないですむ方法』にしたかった。しかし、出版社に断られた。日本語版ではあえて、リッチーの意思を尊重することにした。それは本書の細部にまで、トレードで成功を目指すトレーダーたちへの慈愛にあふれているからだ。そして、トレードでの失敗の多くは売買のタイミングや戦略・戦術にあるのではなく、資金管理にあることを悩めるトレーダーにはっきりと教えてくれている。偉大なマーケットの魔術師の箴言とアドバイスを読めば、タイトルに深い意味を込めたリッチーの真意が理解できるだろう。
原題 My Trading Bible by Mark Andrew Ritchie |
*リッチーのウェブサイト(https://markritchie.me/)にあなたの意見を書き込むと歓迎される。彼は自分とは反対の見方、つまり自分に対する批判を特に好んでいる。
第1章 財産を失っても、自殺しないですむ方法
四種類の読者
初めに詳しく(もう一冊、本を書いた理由)
どうして軽はずみにも本のタイトルに自殺という言葉を使おうとしたのか
えっ? トレードに秘訣はない? またか!
えっ? 仕掛けのシグナルはない? またか!
それなら、この本を書いた動機は?
悪魔は細部に宿る
天才的なIQは必要ない
トレードに必要なスキル
金融市場はプロに有利なように操作されている公認カジノ
ストーリーか論旨か
知ったかぶりをしている人が払う代償
どれくらいの自信ならば自信過剰なのか
無知の代償
FYX(クリスチャンのために)
第2章 競争の条件は公平になったか
FYX(クリスチャンのために)
第3章 大衆は常に間違っている
当然の帰結
FYX(クリスチャンのために)
第4章 聖杯
FYX(クリスチャンのために)
第5章 どれほど悲惨になり得るか
より実際に近い現実
評価
補足
FYX(クリスチャンのために)
第6章 エースのフォーカードを持つクリスチャン?
読者自身で検討するための二人の権威
FYX(クリスチャンのために)
第7章 あとは細かいこと
手仕舞いの逆指値
直感でトレードをしてはならない
トレードアイデアの見本(仕掛けと手仕舞い)
書評
映画批評
トレーダーたちの対照的な見方
お金は諸悪の根源
ウソつき、ウソつき、ズボンが燃えてる
第8章 実践的な補足 マーク・リッチー二世
FYX(クリスチャンのために)の節での私の試み
エピローグ――ようこそ、この世界へ
「本書はトレーダーとして成功するための彼の提案に焦点を当てている。成功は平均の法則、損益に応じてトレードを調整するための式、それに自分の限界をしっかりと理解できるかどうかにかかっている。彼の提案には、『退屈に耐えられなければ、カジノに行きなさい。そのほうがはるかに安くつく』という明快なアドバイスが添えられている。各章はキリスト教徒の読者を対象とした節で締めくくられている」――カーカス・レビュー
「20年前にこの本を持っていたらよかった。これは古典に値する。こういう目標を持った本はめったにない」――ティム・ジョスリン(オーストラリア人トレーダー)
「魅力的で説得力がある。本書の人生の教訓は的確だ」――ジェラルド・ミッチェル(神学者兼一般トレーダー)
「『新マーケットの魔術師』のリッチーのインタビューは大好きだ。リッチールールのアプリはとても気に入っている。たぐいまれな人で、真の一流トレーダーだ。どの証券会社もこの本とアプリの両方を顧客にプレゼントすべきだ」――コンスタンチノス・S・クセロダキス(ギリシャ人独立系フィナンシャルアドバイザー)
「素晴らしい本だ。一般の人にとって不可欠な実用性も備えている。彼の基盤と専門知識は商品先物にあるが、本書のビジネスと信仰についての助言はどんなリーダーにとっても難しい問題について書かれている」――ロジャー・パロット(ベルヘブン大学学長)
「賞を取ることがけっしてない、最も優れたトレード本だ。第5章を読んで、ぎくりとした。私はここに書かれていることを何年もやってきた。この金持ちの青年についての引用は、キリスト教徒とトレードについての最も優れた文章だ」――ウィリアム・レオン(中国深セン市在住のトレーダー)
「私は金融やトレードの経験は浅いほうだが、マーク・リッチーのこの本はトレードとトレードでの成功と失敗の秘訣について紹介した、素晴らしい本だ。非常に有益な案内書で、優れた情報を提供している。何よりも、これは私のような初心者が彼の成功法を理解して、それに従うことができるように書かれている。トレードに興味がある人に大いに勧める」――ドナ・バージェス(『ノーツ・フロム・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド』の著者)
投機の一種であるトレードは特殊な世界である。これが投資であれば、対象資産が安定したキャッシュフローを生むものでありさえすれば、たとえそれを割高で購入したとしても長い間にはその失敗は経済的に癒されることになる。しかし、トレードにはそうした長期保有による救済は一切ない。だから、トレードは現実世界の事実のみに基づいて冷厳に行わなければならない。そこには個人の主義主張や信条やエゴといったものを差し挟む余地はない。もしそれらを捨てられないならば、初めからトレードはすべきではないのである。
著者はそれらの障害について、キリスト教のドグマによる原理主義的な考えや行動を例にとって警告を発しているが、客観的な科学を軽視し個人の経験による素朴概念やどこかの権威に弱い私たち日本人は、その忠告をより真摯に受け止めなければならないだろう。
一方で、リッチーが当初意図した原書のタイトルが「財産を失っても自殺しないですむ方法」であるように、彼は戒めだけではなく「聖杯」の章に強い希望も記している。一般にトレードでの失敗のほとんどは、売り買いの巧拙ではなくマネーマネジメントに原因がある。したがって、私たちはそれに留意するだけで限りなく成功に近づくことができる。この世界では「一〇〇%のトレーダーが儲けている」とリッチーが断言するのもまた真実なのである。
翻訳にあたっては以下の方々に感謝の意を表したい。まず山口雅裕氏には読みやすい翻訳をしていただいた。そして阿部達郎氏は丁寧な編集・校正を行っていただいた。また本書が発行の機会を得たのはパンローリング社社長の後藤康徳氏のおかげである。
二〇二一年一二月
長岡半太郎
この本を書くために、私はギャンブルをしていた時期を除いて、四〇年近くを振り返る必要があった。偶然にも、そして驚いたことに、私はトレードで勝つ人の分かりづらい特徴を見つけた可能性がある。今は聞かないでもらいたい。しかし、あなたの好奇心をほんの少し満たして、勝つトレーダーの視点で考え始めてもらうために、トレードで負ける人の特徴が何かを先に言っておこう。それはトレードで勝つ人の特徴を今すぐに知って、残りの九つの章を読む手間を省きたいという衝動に駆られるタイプだ。申し訳ない。だが、包み隠さず正直に言ってしまうのは、トレードで勝つために欠かせない特徴の一つなのだ。
欠かせないと言えば、トレーダーであろうとなかろうと、助けてくれる人々がいると役に立つ。スティーブ・バン・ルーイはこの本を書くようにと言っただけでなく、完成させるための「仕事」もしてくれた。「次の章はどこにあるんですか?」という声は私の耳にしばらく響き続けるだろう。彼が頑張ってくれなかったら、この本は完成していなかった。
実を言うと、ルーイの励ましに突然、焦点を当てたのは、あるトレーダー仲間からセミナーで話をしてほしいと招待されたからだ。私はジム・プリンスには会ったことがなく、彼のトレードスタイルについても何も知らなかった。彼は私の本を自分の顧客たちに販売していて、好奇心が旺盛だった。そして、そのセミナーはシカゴで開催される予定だった。
私は彼に何の話をしてほしいのか尋ねた。彼は、「あなたの本は非常に役に立ち、手際よくまとめられていて、とても理論的でした。でも、公の場でその本について弁明しておく必要があります。つべこべ言わずに、やるのかやらないのか決めてください」と言った。いやいや、彼に確かめるのは待ってほしい。彼はそんな言い方はしなかった。正確には、「お越しいただいて、少し話をしていただけたら光栄です」と言った。しかし、私の耳には先ほどの「やるのか、やらないのか」という言葉が聞こえてきたのだ。多くの商品先物トレーダーは幻聴を経験する。私たちはできるかぎり、それらを無視しようとする。彼があとから、シカゴ・カブス球場のライトを見下ろせるシェフィールドアベニューの特別観覧席にも行くという情報を伝えてくると、即座に講演を引き受ける約束をした。
その週、私は聴衆の反応に衝撃を受けた。彼らは私の話した内容がほかの惑星に関するものであるかのような反応をしたのだ。「こんな話はこれまで聞いたことがない」というコメントはいろいろな解釈ができる。それが褒め言葉かどうかは読者に委ねよう。少なくとも、私はそれで仕事を進めるようにというルーイの催促を思い出したのだ。
そして、ほかにも助けてくれた人々がいた。テッド・ドリューは私を励まして、編集をし、表紙のさまざまな案を考え、完成まで私にあれこれと口を出した。あなたが私のような人間なら、「やり終える」までぶっとばすことを恐れない友だちを作ったほうがよい。そして、ほかのみんなにも感謝する――まず、私の素晴らしい妻(第5章と裏表紙を参照)、最後の章を書いてくれたマーク・リッチー二世、批評と励ましをしてくれたピーター・ブラント、私のいとこのカート・フリー博士、マイク・フィッシャーとキャシー・フィッシャー、アネット・ロス、リック・コーデル、パメラ・スモザーマン、故ニール・クヌーセン、故ラリー・バーケット、ノーマン・ガイスラー教授、そして、長い年月がたっても私を鼓舞してくれる一九六六年の同級生たちに。
当然、彼は尋ねた。「例えば?」 「自分の命を絶つようなことです」。しばらく、意味深長な間があった。電話では、この間をどう解釈すればよいか、いつもちょっと迷う。
それから、「ああ。あなたはそのことも分かっておられるのですね」と言った。それで二人は打ち解けた。彼は分かったのだ、私が彼の苦境を理解したことを。彼はトレードで人生を台なしにした。私たちは彼の家族や教会やお金について話し合った。詳しく話す必要はない。彼の恥ずかしい過ち―後「知恵」で事実を冷静に振り返ると、なぜか愚かと分かる過ち―を言わなくても、トレーダーならだれでも分かる(トレードほど、後知恵のほうが賢くて、振り返ると簡単で破滅的だと分かる仕事はない。トレードで生涯にわたって問題を抱えている人が最近、私がしたことを「愚かだ」と言った。結末が分かるまで待ちさえすれば、あなたも他人に「愚かだ」と言えるだろう)。トレーダーがこの地点に達したときは、周りにとても心の広い人々がいることを願うしかない。
私の言いたいこと。表紙から第1章に移されても、私は軽はずみにタイトルを選んだわけではない(正直なところ、私はこのタイトルが出版の寸前まで検討されていたことに驚いている)。タイトルにするには個人的すぎるということは認めよう。しかし、このタイトルは、私たちの仕事には心に傷が残るほどのマイナス面もあることを伝えている。私はこの究極の選択肢を選んだ人を何人か知っている。それほどのことなので、私はこのテーマについて話したいのだ。私と同級生たちはどうすれば友人の自殺を食い止められたのだろうかと、過去数十年にわたって何度も考えてきた。当時、私たちは高校三年生だった。読者はおそらくリバモアの人生とトレードスタイルについてすでに知っているだろう。それは私のどのトレードも退屈に見えるほど派手だった。彼の未亡人は最初の四人の夫をすでにこのひどい病―軽々しくそう呼べるとするならば―で亡くしていた。ただし、読者が自殺したいと思い悩んでいるのならば、次の一四項目をじっくり読んでほしい。
あなたがこの苦しみ(自殺願望)を抱えているのならば、それはお金に関してだと思う。考えるべきことがいくつかある。いや、考えてはならない。これらを実行してほしい。そうすれば、立ち直れる。
一.詩編の一編を読んで、元気を出してほしい(それらはとても短く、どれも五〜一〇の文章でできている)。
二.物事を先延ばしにしがちな傾向を利用しよう。あなたはここまで先延ばしにしてきたのだ。もっと先延ばしにしてみよう。それは明日でもできる。このリストを読んだら、この本を読み終えるまで先延ばしにできる。実行する機会はいつでもある。ちょっと先延ばしにしよう。
三.神はあなたの人生の予定を立てている。自殺は神が予定していることではない。
四.あなたがこれをしているのは、後悔から逃れるためだ。これによって後悔が消えることはけっしてないが、新たな人生を歩み始めることはできる。
五.今の人生がすべてだと思っているのならば、明日までか、この本を読み終えるまで待っても、失うものは何もない。
六.これまでに受け取った最も素晴らしい贈り物を思い出そう。その贈り物も、あなたの命という贈り物に比べればささいなものだ。
七.これまでに最も感激したときを思い出そう。あなたはそんな感激のなかで命を授かったのだ。
八.このことについて、じっくりと考えてほしい。あなたが死んだあと、最初に行われるのはビデオの上映だ。そこにはあなたが生きていれば起きたであろう、あらゆる良いことが映し出されていて、悔やんでも悔やみ切れないだろう。生きていれば、とても多くの人の人生を豊かにできただろうに、自殺を実行しては「みじめな人生」と呼ばれるだろう。
九.あなたはドローダウン(大幅な落ち込み)の最中だ。私たちはみんな、それを何らかの形で経験している。あなたのドローダウンが感情、お金、精神のどれについてなのかは分からない。だが、それは重要ではない。重要なのは、そこからどうやって抜け出すかだ。私が保証しよう。明日になれば、あなたのドローダウンも違って見える。愚かなことをしなければならない場合は、明日まで待ってほしい。もっと良いのは、第4章と第5章を読み終えるまで待ってほしい。そうすれば、自分の現在の状況や、どうやってその状況に至ったのか、どうすれば将来それを避けることができるかを理解するのにきっと役立つ。
一〇.この本を読み続けてほしい。ここまで読んでくれて、ありがとう。読み続けてもらえれば、あなたの苦しみに対する答えがきっと見つかる。この著者は自分の苦しみについて何も知らないくせに、とあなたは思っているかもしれない。答えなんてない、と思っているだろう。保証しよう、答えはある。前の段落で、明日は違って見えると保証した。すべての苦しみには答えがある。
一一.詩編を読んで元気を出そう。
一二.助けを求めよう。あなたが今、受けている助けは特定の個人に向けたものではない。だが、あなたに必要なのは個人的な助けだ。例えば、次に示す提案のように。
一三.まだ、ポジションを維持しているのなら手仕舞おう。ここまで読んだのなら、残る問題はお金にかかわることのはずだ。損切りを手伝ってもらおう。損切りするのはいつでも難しい。必要なら、死にたいと思っていることを伝えよう。しかし、損切りはだれかにしてもらおう。相場が予想していた水準に動くかどうかなんて気にするのはやめよう。やがて、そうなる。市場とはそういうところだ。相場は予想していた水準に達する。やがては、だが。一つだけ、聞いておきたい。あなたはその動きに乗るのか? この本の目的は、あなたがそうすることを助けることだ。しかし、あなたがまだこの本を読んでいるのなら、今は手仕舞う必要がある。あなたが何を考えているかは分かっている。これはまるで、取り返しがつかなくなってから、なんとかしろと言う著者みたいではないか、と考えているのだろう。しかし、それは違う。ポジションがまだ残っているのなら、あなたは手仕舞いを終えていないのだから。それに、私は単なる著者として書いているのではない。私はあなたの状況も、どういう気持ちかも知っているトレーダーとして書いているのだ。だから、まだ手仕舞っていないのならば、すぐに読むのをやめて、だれかに手仕舞いを手伝ってもらい、それからまたここに戻ってきてほしい。私の友だちがしたこと―逃げて、大きな含み損があるのを他人に発見させて、代わりに手仕舞わせる―をしてはならない(その時点まで、あなたの損失がどれほど大きいか、だれにも分からない)。それはどんな人間も望まない遺産だ。
一四.最後に。あなたはおそらく許しを必要とするだろう。許しは、あなたが今考えているよりもはるかに簡単に得られる。この点は私を信頼してほしい。あなたを許しがたいと思う唯一の人はあなた自身だ(私は自分が何を話しているのか分かって、書いている)。
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