「商品先物市場」98年12月号掲載

 小豆相場の底についての考察

株式会社三忠 金野秀樹([email protected]) 


 「買いにはロマンがある。」は、この相場の世界で買い好きの者が口にする言葉である。売りの最終点は理論上、小豆相場の刻みで言えば10円と言う値段となるが、買いの場合は理論上は無限大の可能性があるからだ。しかし、いくらロマンがあると言っても、無闇に買っていては儲からない。やはり買うためには、底についての考察をする事が重要である。
 「底百日」と言われている。例え、底値を買えたとしても、そこから急騰と行く事は少なく、鍋底となって日柄を稼いだり、一度強ばんでから、2番底を付けに行ったりする中で、買い玉を持ち続けていると、焦れったさと不安で、数週間が百日にも感じるものだ。相場は心理的なゲームである面も含まれているという事を踏まえて、底を買い拾うのか、順張りで買うのか、押し目を買うのかも考えてみたい。
 商品相場の中では為替変動の影響を受けない小豆相場の底についての考察が、相場の理解に役立つことと思われる。今回は、1980〜98年前半のグラフを見ての視覚的(主観的)な判断で底をピックアップし、それぞれ考察した。
底の分類
下げ止まり
上げ始め
期間
(満)
サヤ

 押し目、
2番底の有無
春の彼岸底
1988年2月
1988年4月
2
逆-順

押し目
春の彼岸底
1998年3月
1998年4月
1
逆-順(同)

押し目
春の彼岸底
1980年4月
1980年7月
3


無し
春の彼岸底
1992年4月
1992年5月
1

逆三尊
押し目
春の彼岸底
1983年5月
1983年6月
1
逆-順

押し目
早い秋の底
1993年6月
1993年7月
1


押し目
早い秋の底
1994年7月
1994年8月
1
逆-順-逆
大鍋
押し目
早い秋の底
1997年7月
1997年8月
1
逆-順-逆

押し目、2番底
秋の底
1987年8月
1987年9月
1

W、先は別
押し目
秋の底
1991年9月
1991年11月
2

大鍋
押し目、2番底
秋の底
1990年10月
1991年3月
5


押し目
秋の底
1995年10月
1996年1月
3

大鍋
押し目
遅い秋の底
1986年11月
1987年1月
2
逆-順-逆-順-逆-順

2番底
遅い秋の底
1985年12月
1986年1月
1
逆-順-逆

押し目

・秋の底と、春の彼岸底

 大きく分類すると、秋の底と春の彼岸底に分類できる。
 秋の底とは、一年草である穀物が持つ季節的変動の一つで、収穫期に安値を出し易いと言う特長である。この小豆の秋の底は、林輝太郎氏によると、「平年作の年は9月に底を打つ。不作の年は2〜3カ月遅く底を打ち、豊作の年は2〜3カ月早く底を打つ。(小豆相場の基本)」と豊凶で前後にずれる性質を持つ。例え不作であったとしても、青田褒めで豊作人気であった年は早めに底を付けるので、人気という要素も重要になり、作柄の単純な統計データでは説明しづらい点も留意が必要だ。
 春の彼岸底は、1〜3月に春の天井を演出した後の下げ相場の終焉として付ける底であるから、ピッタリお彼岸に訪れるとは限らない。春の天井が長引けば、この春の彼岸底も遅く付ける事になり、5月の播種期まで長引けば天候相場にまで、ずれ込むこともある。

・サヤについて

 今回取り上げた14例の内、順ザヤが6つ、サヤ転換が7つ、逆ザヤが1つであった。「サヤ変わりに注意」と言われているとおり、サヤ転換は一つの指標として有効である。秋の底が順ザヤが多いのは、旧穀限月の捨て場となる限月が納会するために、サヤ滑りが起こり易いことによるであろう。逆ザヤでの底は一つだけであるがこの年は大相場を示現した年である。これは中段の底と捉える。
 通常は順ザヤかサヤ転換で底を形成すると考えて差し支えないだろう。

・底型についての特長

 早い秋の底は1カ月の底形成であるのに対し、その他の秋の底は比較的長期に渡るのは、その期間にサヤ滑りが起きているからである。
 春の彼岸底が鍋底の様に緩やかな底であるのに比べて、秋の底の方が大きな底型となっているが、これは天候相場での人気によるものと考える。

・買い方について考える

 今回、実践者にとって最大の関心事である張り方について考えてみる。つまり、底値圏での買い拾いが良いのか、順張り乗せが良いのか、底確認後の押し目買いが良いのか。今回挙げた底の中では、押し目、あるいは2番底を形成しないで上昇した例は一つだけであった。小豆相場は、押し目、あるいは2番底があるのが普通であると言う特長を持っていると言えよう。1番底を買い逃しても、再び買い場が来ることを考えれば、1番底を買い下がる必要はない。そして、形成する押し目、2番底で、ナンピン買い下がりをする事で平均値を有利に出来る事が分かっているのであれば、順張り乗せで本玉を仕込むよりも、逆張りが有利と考える。かくして小豆相場では、底打ち確認後に、押し目を逆張りで買い下がるのが買い方の定跡であると結論付けたい。もしも押し目を形成しないような上昇相場であった場合は見送ってしまい、次の天井の売りを狙うくらいの余裕が欲しい。(これは小豆相場の考察であり、他銘柄については順張り乗せが有利なものもある)

 現在、小豆相場は8月の天候相場の天井から下げ相場を形成している。ここから秋の底を経て、再び上昇相場を演出するのが自然であろう。上記のことからも急いでの底値圏での買いではなく、年内見送りで、年明けから底確認後の押し目を待って逆張りで買い下がるのが良いだろう。


(記 10月20日)


※以上の記事は、投資日報社発行の月刊誌「商品先物市場」98年12月号に掲載されました。
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