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ウィザードブックシリーズ Vol.286

フルタイムトレーダー完全マニュアル【第3版】 フルタイムトレーダー完全マニュアル【第3版】
戦略・心理・マネーマネジメント――相場で生計を立てるための全基礎知識

著 者 ジョン・F・カーター
監修者 長岡半太郎
訳 者 山下恵美子

2019年9月発売
定価 本体5,800円+税
A5判 上製本 782頁
ISBN 978-4-7759-7255-7  C2033

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著者紹介目次監修者まえがき第1章「私の妻からの言葉」

トレードで生計を立てるための必携書!

 日々の急激な値動きや、数日から数週間にわたる値動きを発生させる要素はたくさんある。これらの動きは表面上はランダムに見え、突然発生したかに見える。ほとんどのトレーダーはこうした価格の爆発的な動きや内部崩壊的な動きの間違った側にいるか、これらを見逃すことが多く、そのため長期的に見ると損をする。一方、生き残っていける少数の精鋭たちはこのランダムさをただ受け入れることはなく、しっかりと理解しようと試みる。市場から長期にわたって一貫してお金を儲けられるのが彼らだ。

 本書は、個人トレーダーのバイブルとして長年ロングセラーを誇ってきた『フルタイムトレーダー完全マニュアル』を全面改定したものである。今最も注目を浴びるトレーダーの1人であるジョン・F・カーターがトレーダーに贈る最高傑作に仕上がっている。本書が早くも古典と言われるゆえんはその内容にある。人気を博した第1版では、市場全体のメカニズム、チャートのセットアップ、トレード手法・戦略、マネーマネジメント、心理的なガイドラインなど多岐にわたるテーマが取り上げられたが、本改訂版ではそれらに以下の点が新たに加えられた。

 トレードに用いるハードウェアやソフトウェアから、市場のメカニズム、仕掛けと手仕舞いパラメーター、ポジションサイジングなど、競争に打ち勝つためのツール一式が本書にはぎっしり詰まっている。本書を読めば、あなたにとってうまくいくもの、いかないものを選別する能力が身につき、株式トレードであろうが、オプション、先物、FX、あるいは仮想通貨のトレードであろうが、あなたに合った堅実なポートフォリオを作成できるはずだ。読者がプロとしてトレードの最前線で活躍でき、トレードで生計を立てられる近道を伝授するのが本書の最大の目的である!

■本書への賛辞


■著者紹介

ジョン・F・カーター(John F. Carter)

シンプラートレーディング社(https://www.simplertrading.com/)の創設者。個人トレーダーに対して株式、オプション、先物、FX、仮想通貨をトレードするうえでのエッジを与えるインディケーターやソフトウェアを作り続け、毎日、市場のリアルタイム情報を伝えるコメントも提供している。2014年、シンプラートレーディング社は、トレーダーや投資家向けに最新で最良のツールや教育を提供しているとして、インク500社リストで21位に輝いた。トレードをしていないときは、妻と3人の子供たちとの時間を大切にし、テキサス州ヒルズカントリーのなかにある自身の牧場でヤギや牛たちの世話をしている。ツイッターは「@johnfcarter」で、メールアドレスは「[email protected]」。

原題:Mastering the Trade, Third Edition : Proven Techniques for Profiting from Intraday and Swing Trading Setups 3rd Edition by John F. Carter


■目次

序論
監修者まえがき
謝辞
序文
はじめに

第1部 基礎編――市場が動くメカニズムを理解し、トレードと投資を成功に導くための最良の心づもり

第1章 市場を動かすものは何なのか
 市場でお金を失う人はこれら4つのことをやっている人
 マーケット参加者の痛みを理解すると成功する確率が高くなるのはなぜ?
 ハーバードビジネススクールでも教えてくれないケーススタディ――これはあなたやあなたの伴侶に起こったことはあるか
 私の妻からの言葉――トレーダー、ジョン・カーターとの結婚生活にどう折り合いをつけてきたか
 私はどのようにしてトップに上り詰めたのか
 「フェイクオーガズム」のセットアップでの稼ぎ方
 市場で重要な唯一の経済原理

第2章 トレード心理学入門――学校では絶対に教えてくれないこと
 感情を出してもよいのは結婚式と葬式だけ――トレードと投資ではなぜ感情を出してはならないのか
 システムを持っている人はなぜカジノで歓迎されるのか
 市場の正しい見方――それがないのにコンピューターのスイッチを入れるな
 ミネソタでやった愚かなこと
 口座が破産してしまってから初めてそれを実感するのはなぜ?
 トレーダーのマインドセット――ゲームで冷静でいるための最高の方法
 常に勝利する見通しを立てる最も簡単な方法
 誠実さはトレードの成功とどんな関係があるのか
 あなたは今トレードの旅のどの段階にいるのだろうか
 第1段階 いつも負ける――人生で勝つのに役立つ習性は市場では通用しない
 第2段階 恐れによるトレード――「私が触れたものはすべてクズに変わる」のはなぜ?
 第3段階 聖杯の探求がトレーダーや投資家としての成功を限定するのはなぜか
 第1段階〜第3段階にはまって身動きできない状態かどうかを見分ける方法
 つもり売買――イラク・ディナールほどの価値もない
 第4段階 損をしない方法はどう学べばよいのか
 プラトー・マネーマネジメント手法はなぜうまくいくのか
 トレードや投資をするとき明記すべきこと
 トレードに対する考え方を正しく維持するうえで役立ったほかの書籍

第3章 市場が動くのには理由があるのか
 市場は動いている――あなたはその流れに乗っているか、それとも逆らっているか
 市場はなぜ動くのか
 どのニュースレターがよいか
 優先順位を決める――市場が開いてから2時間以内に邪魔が入るようであれば、それはすべてあなたの責任
 午前零時以降はCNBCを見るよりDVDで『ハリーポッター』を見るべし――それはなぜか

第4章 市場については理解した――では、何をトレードすればよいのか
 正直に言って、私が成功する可能性が最も高い市場は?
 シンガポールまでのファーストクラスのチケット代にあなたはいくら払う?
 これらのオプションを義母のトレード口座で買わないのはなぜ?
 ディレクショナルプレー――0.70以上のデルタが優れているわけ
 インプライドボラティリティクラッシュの重要性――「ママ、見て。みんな、パニクってるよ」
 保有すべきときとスプレッドにすべきときはどう見分ければよいのか

第5章 株式市場のオープンと同時にやるべきこと――市場の次なる動きを最もよく予測するツールは何か
 音楽家は音楽の読み方を知っている――トレーダーは市場の読み方を学べるだろうか
 内部要因って何てすごいんだ、読み方を学ぼう
 株価の動く気配を最も早く察知するインディケーター
 買い圧力と売り圧力を読む最良のツール
 ナスダック版TRIN
 プット・コール・レシオ――王国へのカギ
 日中に市場で起こっていることを知るための最も効果的な方法
 その日がちゃぶついた日になるかどうかを知るにはここを見よ
 すべてのデータを1つの画面上に置け――オープニングベルの音とともにその日の市場を感じとれ
 トラッキングすべきそのほかの重要なこと
 これを無視すればチャンスはつかめない
 まとめ

第6章 初心者トレーダーがたどった旅   ダニエル・シェイ・ガム
 それはこうして始まった
 私の気持ちを変えたもの
 5年先送りしよう
 私のトレーダーとしての人格
 新たな人生の始まり
 上がったものは必ず下がる、いや下がらなければならない?
 そこからは太陽がさんさんと降り注ぐバラ色の人生が始まった、だったらよかったのだが……
 大きな変化
 達人たちから学んだこと
 一貫して利益が出せるようになるためのアドバイス
 最後に

第2部 先物、株式、オプション、FX、仮想通貨のためのデイトレードとスイングトレードの最高のセットアップ

第7章 オープニングギャップ――なぜこれがその日最初で最大の高勝率プレーなのか
 第3版の注意点
 セットアップを考えずにトレードすることはコンパスを持たずにアマゾンをハイキングするようなもの
 市場によってギャップは異なる
 ギャッププレーのトレードルール
 やられるのはだれか?
 ギャッププレーの実例
 ギャップが埋まらないときの対処法
 フルタイムでトレードできない人向けの戦略
 このセットアップのポジションサイズは?
 ギャップのまとめ

第8章 ピボットポイント――トレンド日には小休止するのに良いポイント、ちゃぶいた日には逆張りの絶好のポイントとなるのはなぜか
 インディケーターベースのトレーダーを打ち負かす最高の方法
 ピボットはどの市場でも同じというわけではない
 ピボット設定の具体例
 ピボットの背景にある心理――やけどをするのはだれか
 トレンド日におけるピボットプレーの買いのトレードルール(売りはこの逆)
 ちゃぶついた日におけるピボットプレーの買いのトレードルール(売りはこの逆)
 ピボットプレーの実例
 トレーリングストップ使用の勘どころ
 ピボットをうまく利用するための秘訣
 フィボナッチ数について
 ピボットを使ったコモディティ市場の最高なトレード方法
 ピボットのまとめ

第9章 ティックフェード――新米トレーダーからお金を奪う最高なプレー
 アクションの決め手となるナンバーワン・アラート
 ティックフェードの売りのトレードルール(買いはこの逆)
 ティックフェード・セットアップの具体例
 ティックフェードのまとめ
 ティックフェードプレーがうまくいかないときをどうやって知るか
 ティックに「付いて行く」プレー

第10章 平均回帰――「利食いする最良のタイミング」
 どこでトレンドがなくなりガス欠になるか
 こんなにすごいプレーなのに、なぜみんなこれをプレーしないの?

第11章 スクイーズ――市場の大きな動きに対してポジションを建てる最良の方法
 キャッシュフローのためにトレードすべきか、それとも富を構築するためにトレードすべきか
 ボラティリティの再定義とそれを有利に使う方法
 大きな動きの直前に仕掛ける最高な方法
 買いのトレードルール(売りはこの逆)
 新米トレーダーが犯す最大の過ち
 大暴落の前にポジションを持つためには
 別に仕事を持っているためフルタイムでトレードできない人のための戦略
 2008年の金融危機以降の例
 うまくいかないスクイーズを避ける最高な方法

第12章 ウエーブをとらえよ――どんな市場でもどんな時間枠でもトレンドの正しい側にいる最も簡単な方法
 アンカーチャートの概念を理解することが重要なわけ
 ウエーブとは何か、そしてそのメカニズムは?
 スクイーズが発生する前にウエーブを使ってそれを知る

第13章 トレードを早く手仕舞いしすぎないようにするための最高のツール
 仕掛けは二束三文の値打ちしかない――お金をもたらすのは手仕舞い
 市場にふるい落とされそうなときに自分を守るにはどうすればよいか

第14章 スキャルパーアラート――トレンドの変化を素早く見つける最高のツール
 落ちるナイフを拾うな、貨物列車の前に飛び出すな、トレンドの変化を目ざとく見つけて儲けよ
 スキャルピングではティックチャートを使うのがベスト
 買いのトレードルール(売りはこの逆)
 スキャルパーアラートの買いと売りのセットアップの実例
 スキャルパーアラートのまとめ
 複数のセットアップの組み合わせで勝率を上げよ

第15章 ブリックプレー――日中のトレンド反転をとらえる
 ブリックを使ってミニダウの日中の反転をとらえる
 買いのトレードルール(売りはこの逆)
 ブリックのまとめ

第16章 3時52分プレー――上等な葉巻でその日を締めくくれ
 ほかの人はここでパニックに陥る
 買いのトレードルール(売りはこの逆)
 3時52分プレーのまとめ

第17章 ホープ・アンド・ロープ・プレー――潰されることなくトレンドの転換をとらえよ
 安いから買う、高いから売るは危険――ただし例外がある
 売りのトレードルール(買いはこの逆)
 ホープ・アンド・ロープ・プレーのまとめ

第18章 推進プレー――株式、SSF、株式オプションのスイングプレー
 個別株の大きな動きに備えよ
 SSF取引のためのトレーダーズガイド
 個別株オプションの唯一のプレー方法
 買いのフェードプレーのトレードルール(売りはこの逆)
 推進プレーの最新チャート
 推進プレーのまとめ

第3部 実践編――トレードの現実世界

第19章 私のトレードの旅と戦略   ヘンリー・キャンベル
 トレーダーになりたい?
 損切りを置かない
 成功の探求
 マインドフルネスと柔軟性
 ギャンブルとしてのトレード
 テクニカル分析
 時間枠
 週足チャート
 日足チャート
 SMAを使うわけ
 チャートの色
 8日EMAと21日EMA
 スイングセットアップをオプションに使う
 対称性
 終わりに

第20章 私にとっての最高のセットアップ   ダニエル・シェイ・ガム
 5つ星のセットアップ
 あなたのセットアップのランク付け
 基準はどこからやってくる?
 私の好みのセットアップ
 私の好みのスクイーズ
 リサーチの公式――どのようにして見つけるか
 銘柄を絞り込むためのフィルター
 トレンドのチェックリスト(強気トレンドの場合。弱気トレンドはこの逆)
 まとめ
 終わりに

第21章 私は市場をどのように見ているか、どのように考えているか、また1回のオプショントレードで140万ドル儲けたとき、私は自分の感情をどうコントロールしたか
 まず最初に
 トレーダーとして成功するにはどれくらいのリスクをとる必要があるのか
 学習曲線はどんなものだったか
 今のトレード方法
 手仕舞いを決定するときの思考プロセス
 新米のオプショントレーダーへのアドバイス
 あなたの好みのセットアップは?
 140万ドルのテスラのオプショントレードの話
 このトレードであなたはどんな風に変わったか

第22章 トレードでは正しいテクノロジーが重要   ダレル・ガム
 はじめに
 デスクトップ対モバイル対ノートパソコン
 コンピューターセキュリティ
 トレードプラットフォーム

第23章 何をやってもうまくいかないときのためのテクニック
 腹がへったら泣け――感情を味方に付ける
 フォーシーズンズホテル・トレード
 ありがとう、もうひとついただいてもいいですか?
 私が動くとき、あなたも動き、みんなも動く
 船長、潜水艦がどんどん沈んでいきます!
 やった! ハイファイブだぜ、ベイビー
 自分の性格を見極めよ――あなたは自分を抑えられる性格か?
 性格とトレード――あなたの知らない自分の性格がトレードの障害になる
 トレードはそれほど簡単なものではない――モチベーションを高めるためにやるべきこと

第24章 トレードの達人になるためには
 アマチュアは甘い夢を見、プロは盗む
 プロの心のあり方を維持するための40のアドバイス
 トレーダーの長く険しい旅を生き抜くためには
 トレードを行う前に
 まとめと最終考


立ち読みコーナー(本テキストは再校時のものです)

■監修者まえがき

 本書はジョン・F・カーターによる“Mastering the Trade, Third Edition : Proven Techniques for Profiting from Intraday and Swing Trading Set”の邦訳である。オリジナルの“Mastering the Trade”は、2007年に『フルタイムトレーダー完全マニュアル 戦略・心理・マネーマネジメント――相場で生計を立てるための全基礎知識』(パンローリング)として翻訳・出版されて好評を博した。これは12年ぶりの大幅改定版にあたる。

 さて、この期間に取引環境の整備が大幅に進んだことや情報量が圧倒的に増えたことで、初心者がトレードを始めることそのものは極めて容易になった。その結果、当時はアメリカにおいてもまだ少なかった専業トレーダーという存在も、現在では日本でもまったく珍しいものではなくなっている。一方で、市場の効率化・機械化のほうも間違いなく進んでおり、個別銘柄の単純なセットアップによって濡れ手で粟の利益を得るという機会が少なくなってきたことも間違いなく事実である(もちろんそうした機会は完全にはなくなっていない。社会制度や市場心理に起因するもののように、永遠に残るアノマリーもなかには存在する)。

 だが、そうした変化とは別に、私たちにとって大きな朗報としては、近年のオプション市場の飛躍的な成長が挙げられるだろう、私が最初にオプションを学んだ1980年代においては、オプションとは理論は存在しても実際にはOTC(店頭取引)が主体で、売買できるのはごく少数の機関投資家に限られていた。また、上場オプションは選択肢も少なく手数料も極めて高かったことから、到底、短期トレードの対象とはなり得ず、このため個人投資家にとってオプション取引は、事実上は机上の空論であり、絵に描いた餅であった。

 しかし、現在では上場オプションの銘柄数と流動性は大幅に増大した。幸いなことに、これらの市場はまだまだ発展する段階、過渡期にあり、既存の市場ほど成熟・洗練されてはいない。別の言い方をすれば、何らかのゆがみを発見できる機会を多く提供してくれるということだ。今後は、間違いなくオプション市場が賢明なトレーダーにとっての主戦場になっていくことだろう。この改訂版はそうした変化を大いに反映した充実した内容になっている。その意味では、第1版の翻訳書の長尾慎太郎氏の監修者まえがきにもあるとおり、本書が日本のトレーダーにとって一種のアカシックレコードになっているという事実は、今もまったく変わらない。私自身も今後も折に触れ、何度も読み返すことになると思う。なお、オプショントレードのより幅広い知識を得たい方には、本書と親和性が高く、最近刊行されたローレンス・A・コナーズの『「恐怖で買って、強欲で売る」短期売買法――人間の行動学に基づいた永遠に機能する戦略』(パンローリング)を合わせて読まれることをお奨めする。

 最後に、翻訳にあたっては以下の方々にお礼を申し上げたい。山下恵美子氏は正確な翻訳を行っていただいた。そして阿部達郎氏には丁寧な編集・校正を行っていただいた。また、本書が発行される機会を得たのは、パンローリング社の後藤康徳社長のおかげである。

 2019年8月

長岡半太郎

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■はじめに

 私が短期トレードについて最大の教訓を得たのは、急流下りツアーに参加したときのことだ。8人を乗せたいかだが岩にぶつかり転覆したため、私たちは宙に投げ出されて氷のように冷たい水の中に真っ逆さまに転落した。こんなときは冷静を保ち、仰向きになって足を下流に向けることを覚えていたのは私を含めて4人だけだった。おかげで私たち4人は岩と岩の間の階段流の流れに沿って何とか無事に岸にたどり着くことができた。残りの4人に起きた出来事を知ったのはそれから1時間後のことだった。彼らはレスキュー隊に救助されたのだ。ある者は足に大ケガを負い、ある者は脳震盪を起こしていた。あわや溺れかけた者もいた。あとで彼らと話して分かったのだが、全員が一種の思考停止状態に陥ったというのだ。自分の身が危険にさらされていることも、ピンチに陥っていることも分かっていた。何かしなければならないことも分かっていた。しかし、何をすればよいのかを判断することがまったくできなかったのである。そうなると彼らに残された選択肢はひとつだけ。ヘッドライトに照らされて身動きできなくなったシカのように、固まるしかない。かくして思考回路が停止して身動きできなくなった彼らを、川はまるで売春婦のヒモが怒り狂って彼女らを意識を失うまで平手打ちするかのように、その大きなうねりで瞬く間にのみ込んでしまったというわけである。

 思考停止に陥ったメンバーの1人が次のように言ったのを覚えている。「あの川は俺をやっつけようと、あそこで待ち構えていたんだ」。これは彼の被害妄想と勝手な言い分以外の何物でもない。川がだれかをやっつけようと待ち構えているはずがないではないか。川は当然すべきこと、つまり海にたどり着くために峡谷を勢いよく流れることをしたまでだ。こうした川の性質をよく理解していた者は心の準備ができていたため、あのローラーコースターの旅をうまく切り抜けることができたが、心の準備のなかった者は徹底的に打ち負かされたのである。

 トレードもこのいかだツアーとほぼ同じだ。準備のできていないトレーダー(初心者)は、何の心構えもない急流下りの参加者と同じ状況にある。どちらも極端な状況に直面すると、フリーズしてしまうのだ。運がなければ命を失うこともある。たった一度の悪いトレードで、何カ月、あるいは何年分かの利益が吹っ飛んでしまうことだってあるのだ。

 プロのトレーダーが金儲けできるのは、彼らがいつも正しいことをしているからではなく、俗にいう「フレッシュミート」をうまく利用する方法を知っているからだ。フレッシュミートとは、経験が10年に満たないアマチュア、つまり準備のないトレーダーたちのことを言う。しかし、プロに脱皮できるトレーダーはごくわずかで、ほとんどはトレードキャリアを通して利用される側にとどまることが多い。幾多の苦難に耐え、コンスタントに勝てるトレーダーの仲間入りをする少数派は、次に述べる真実を学んだ人たちだけだ。

 こういった知識のないトレーダーはライオンの群れに囲まれた手負いのアンテロープと同じである。アンテロープがズタズタに引き裂かれてライオンに食われてしまう「かどうか」はもはや問題ではない。問題は「いつ」そうなるかである。トレーダーの場合もまったく同じで、こういった知識のないトレーダーが破産する「かどうか」は問題ではない。「いつ」破産するかが問題なのである。

 にもかかわらず、毎年何万もの準備不足のトレーダーたちが市場に押し寄せる。明らかに不利な立場にあるにもかかわらずに。まるで、増殖しすぎて集団自殺に追いやられるレミングさながらだ。彼らの頭の中は、一獲千金、ファーストクラスのチケット、ボスをたたき出すといった幻想でいっぱいだ。トレードの実態を知るべきだったと気づいたときには、時すでに遅し。断崖はもう目の前にあり、眼下の海めがけて身を投じるしかない。彼らが行った努力の成果はというと、大きなフラストレーションと絶望、そしておそらく怒り心頭の伴侶、そしてプロのトレーダーに身ぐるみはがされた口座が残るだけだ。

 近年では熱狂する仮想通貨市場でも同じようなことが起こった。最初に参入した人は大儲けした。しかし、ビットコインのような市場が突然現れて落ち着いてくると、彼らはほかの市場と同じようにトレードし始めた。あなたがトレードしているのは仮想通貨やネットフリックスではない。あなたのトレード相手は、あなたは間違っていて自分たちは正しいと思っている他人やほかの機関なのである。このことを忘れてはならない。

 トレードは、みんな仲良く手をつないでジョン・レノンの「イマジン」を歌いながらお金儲けをしましょう、といった性質のものではない。金融市場はこの地球上で最も民主的な場所だ。男か女か、白人か黒人か、アメリカ人かイラク人か、共和党か民主党かなどは一切関係ない。物言うのは、スキルのみである。

 プロのトレーダーになるための唯一の方法は、大移動する羊の群れから抜け出すための武器を手に入れることである。具体的には、前記の5点を考慮に入れたチャートセットアップとトレード手法に加え、大勢の裏をかくトレーダー心理を身につけて有利な立場に立つことである。こういった武器を持たずに興奮と期待だけで金融市場に入っていけば、捕食者の餌食になるだけだ。回転ドアから入ってくる初心者をプロのトレーダーは舌なめずりして待ち受けているのだから。脳天気な初心者はプロにとっては焼きたての厚切りステーキ、つまりごちそうなのである。

 本書の読者対象

 本書は、株価変動の根底にある理由に基づいて市場にアプローチする独特の方法について述べたものであり、株式、オプション、先物、外為、仮想通貨のトレードに適用可能だ。株価変動の根底にある理由とは何だろう。市場は動きたいから動くのではなく、必然によって動く。追証(マージンコール)、ストップ注文の狙い撃ち、心理的降伏は、トレーダーたちに成り行き注文を強いる大きな要因だ。こういった状況下では、山のような成り行き注文が短時間のうちに集中的に発注される。その結果、5分から数時間続く日中の大きな動きを生みだし、数日から数週間続く大きなスイングの動きを生みだす。市場のこういったメカニズムを理解していない多くのトレーダーにとって、これが大きな痛手になるのは言うまでもないが、こういった動きの裏で大儲けしている一握りのトレーダーがいるのも事実だ。本書では、こういった動きをうまく利用して伝統的なテクニカル分析とチャートパターンを基に大勢の「裏をかく」方法について解説する。

 戦略を書くに当たっては、本書では株式、オプション、ETF(株価指数連動型上場投資信託)、先物やコモディティ市場、FX(外為)市場でのデイトレードのための仕掛け、手仕舞い、損切り水準について解説するとともに、仮想通貨トレードの更新方法やオンラインサイトで見つかった最新の戦略についても説明する。戦略としてはさまざまな市場やアセットクラスをトレードするデイトレード、スイングトレード、ポジショントレードを中心に解説する。

 本書で述べた各種市場のあらましと各トレード戦略はいかなるレベルのトレーダーにとっても役立つ内容だが、特に初心者にとっては、市場の仕組みを知り、諸々の概念やトレードセットアップを明確に理解するうえでは欠かせないものだ。本書を読めば、初心者が勝てない理由ははっきりするはずだ。勝つためには、舞台裏で起こっている市場の力学というものを理解しなければならないのである。また、初心者がプロのトレーダーに食い物にされる理由も理解できるようになるだろう。

 中級レベルのトレーダーにとって本書はさらなるレベルアップを図るためのツールとなるだろう。また、プロのトレーダーやインサイダーにとっては直感的に正しいと感じていることがなぜ正しいのかがはっきりすると同時に、パフォーマンス向上のための新たなアイデアを得るための手段となるだろう。

 デイトレーダーにとっては、なぜインディケーターだけに依存してはならないのかが理解できるようになるだけでなく、早期に仕掛けるための戦術を発見し、見切りをつけるべきときと波に乗り続けるべきときとを見分ける方法も身につくだろう。スイングトレーダーや証券コンサルタントにとっては、市場の満ち引きの読み方や買いと売りのどちらのサイドに焦点を当てるべきかを知る方法を学ぶことができるだろう。年金口座で投資している投資家は、月次ベースや四半期ベースでタイミングよく投資するアイデアを発見して、投資リターンを向上させることができるだろう。本書は基本的にはフルタイムトレーダーを対象にしたものだが、別の仕事を持つパートタイムトレーダーのためのアドバイスも随所に織り交ぜてある。日々のトレードにぜひ役立てていただきたい。

 本書は金融市場に興味をお持ちの方ならどなたでもお読みいただけるが、基本的な知識があることを前提にしている。ただし、仕掛けレベルでの市場概念については第3章で解説している。またオプション売買についての章も設けており、いくつかの基本的なオプション戦略についても詳しく述べているが、すべての方法を説明しているわけではない。つまり、すでに語り尽くされていることや、グーグルで検索すれば情報が得られるような項目については、ここで改めて述べる必要はないと思って割愛した。本書はこれまでに述べられていない新しい概念のみに焦点を絞った。また本書の内容に関連するウエブサイトや参考文献も紹介しているのでぜひご利用いただきたい。

 本書では個々のトレードのセットアップに加え、用いるべきハードウエアやソフトウエア、マネーマネジメント、トレーダーの性格に合ったゲームプランの作成といった実用面も紹介している。最後に、翌日のトレードにすぐに利用できる情報については特に重視した。

 第3版についての注意点

 本書の第1版は2005年に書き、第2版は2012年に書いた。第3版でも初版で述べたテクニックの多くを使っているが、なかには改訂したものもあれば、削除したものもあり、新たに加えたテクニック、章、実例もある。第3版を出版するにあたっては複雑な心境であったことを認めざるを得ない。私がよく受ける質問は次のようなものだ――「これらのトレード戦略があなたにとってうまくいっているのであれば、なぜそれを他人と共有しようとするのですか? みんながその戦略を使い始めれば、効果はなくなるという不安はないのですか?」。まったくもって的を射た質問だ。

 本書の最大の失敗のひとつは「3時52分プレー」だった。これは長い間私の好みのセットアップの1つだったが、多くの人が本書を読んでこのトレードを始めると、次第に効果を失っていったのである。このプレーの問題点は、それが1日の特定の時間における出来高を伴わないセットアップであるという点だった。したがって、このトレードが効果を失うのに出来高の増加は必要ではなかった。そこで、第3版ではこのトレードは市場の内部要因をより重視する「1日の終わりのトレード」に変更した。このプレーはトレードの逆側にいるのがだれなのかをはっきりと把握することができるため、プレー自体は第3版でもそのまま残した。このプレーを理解すれば、ほかの市場での大引け間際の似たような状況を見つけることができるかもしれない。そのほかのセットアップはそのままである。これらのセットアップのほとんどは私がトレードしている流動性の非常に高い市場に関連するものだ。ヘッジファンドは大きすぎて日中ベースではこれらのセットアップは利用できず、これらの市場を動かしてヘッジファンドがやっていることを埋め合わせることができるほど多くの個人トレーダーはいない。さらに、これまで長い間トレーダーにかかわってきたが、彼らに勝てるセットアップを教えても、彼らはパラメーターを自分たちの性格に合わせていじってしまうのである。そのセットアップで2回連続して負けようものなら、パラメーターをすぐにいじりまわす(「ほら、パラメーターをいじったから、もう二度とそんなことは起こらないよ」)。その結果、セットアップが発生してもボタンは押されないのである。

 「なぜそれを他人と共有しようとするのか」という言葉に関しては、私もなぜなのかを完全に分かっているわけではない。私は書くことは好きだが、1冊の本にしようと思えばいろいろな苦労はあるし、多大な時間を要し、集中力と固い決意も必要だ。いつの日にか私と同じように本を書きたいという人々に会う機会も多いが、実際に書く人はいない。彼らを非難しようとは思わないが、本を書くという作業は多大な時間がかかる作業だ。外部からの助けを得たとしても時間がかかる。いろいろな分野で本を出しているほかの著者の話から、本を書くときにはある傾向があることを発見した。自らの手で本を書くためには、あなたの体からそれを絞り出したいという気持ちに駆られなければならないということである。第1版を書くとき私はそれを私の頭の中から押し出したいと思った。そして、6年後(第2版の出版)にも再びこの感情が現れ、そして再び現れた(第3版の出版)。それは、情報の泡が頭の中に現れて、頭をすっきりさせて前進するためには、その泡を頭の中から取り除かなければならないといった感じだ。本を書くことは、短期的には実用的なことだ。「あなたの好みのセットアップはどういうものですか?」と人々に聞かれたら、私は彼らに本書を手渡すだけでよいからだ。そうすれば時間の大幅な節約になる。

 もっと長期的に考えると、いつの日にか私の予想よりもはるかに早く死の女神が私にこっそり近づいて私が死ぬとしよう(10代であったのが昨日のことのように感じるが)。本を書くということは、私が死んだずっとあとにも私の一部が生き続け、次なる冒険に繰り出す1つの手段になるかもしれないということである。私はひいおじいさんのことは何も知らない。もしかすると本を書くということは、私の子孫が私のことを少しでも知る手掛かりを与えるものになるのかもしれない。そして彼らがトレードをしようと決めたとき、私の本によって彼らの学習曲線が短縮できればそんなうれしいことはない。トレードは痛みを伴うものだ。もし私の子孫が本書を読んで、フラストレーションをためてコンピューターに怒鳴り散らすことなく、成功するトレーダーになるための心得をいくつかでも見つけることができたのであれば、それで私は使命を全うしたことになる。

 本書を読んで、本書から何かをつかみ取った人には感謝する。トレーダーズエキスポなどのイベントでは本書の読者にたくさん会う。買ってくれた本にサインをして、彼らからたくさん話を聞く。本書はトレードの聖杯を探している人、あるいはメカニカルにトレードして残りの人生を楽をして生きるためにシンプルなシステムを探している人には向かない。本書は、自らのトレードスキルと性格を試しながらトレード道を歩んでいこうという人たちのためのものだ。それは日々のプロセスであり、生計のためのトレードを面白いものにしてくれるものである。なぜなら1日として同じ日はないのだから。だれかが本書は読む価値があり、学ぶことがある本だと評価してくれれば、あるいは批判してくれてもよいが、そんなうれしいことはなく、光栄の至りである。

 トレードと人生は緊密に絡み合ったものだ。自分自身のことをよく知るほど、あなたの性格にピッタリの市場、戦略、トレード哲学を見つけることができるだろう。さあ、トレードの世界に繰り出そうではないか。


■私の妻からの言葉
トレーダー、ジョン・カーターとの結婚生活にどう折り合いをつけてきたか
 「トレーダーと暮らすということ」――マリア・M・カーター

 大切な人や愛する人とトレードを始めようとしている人も、大切な人や愛する人とトレードの旅を着々と歩んでいる人も、どうか彼らと一緒に本セクションを読んでもらいたい。

 ジョンと私は結婚して20年になるが、一緒に暮らし始めては25年になる。デートも結婚生活もジョンのトレード経験レベルを抜きにしては語れない。ジョンがトレードの荒波にもまれている間、「亭主のそばに寄りそう」ことに対して、いつかメダルをもらえるのではないかと長い間、心待ちにしていた。こうした学習経験を耐え抜くことで、私たちは今ある生活と自由を手に入れることができたと、今実感している。どうか、私たち2人が体験したことから、そしてトレード初心者がトレードで生計を立てようとがむしゃらに頑張ってきた軌跡から学びとり、敏感に感じ取ってほしい。

 私たち夫婦のトレードのリトマステスト

 どんなトレーダーも悪いトレードをすることはあり、本当に大きな損失を出すことも1回や2回ではない。常に負けトレードにさらされているトレーダーとかかわっている場合、それを無視することは現実から目を避けることであり、正直言って無責任とも言える。こうした荒波を乗り切り、あなたのパートナーがトレードの道を正しい理由で歩んでいるのかどうかを知るには2人で議論する必要がある。腹を立てても痛みが残るだけだ。腹を立てる前に次の「3つのP」について考えてみよう。

 パッション(Passion)

 どの分野でもプロになるには、あなたのやっていることを愛することが重要だ。借金を返したい、あるいは手っ取り早く儲けたいと思ってトレードをするのであれば、痛い目に遭うだろう。ジョンに初めて出会ったのは私が19歳でまだ大学生だったころだが、出会ったその日から彼は市場にどっぷりはまっていた。そのときでさえ、イオメガという小さな会社に仕送りの一部を投資すれば儲かるよ、なんてことを私に言っていた(おかげで私はイオメガにすっかり夢中になってしまった)。  高い志を持つトレーダーは市場に興味を持ち、市場のことを学ぶプロセスを楽しみ、自分のライフスタイルとトレードしている市場が自分の性格に合うものかどうかを考える必要がある。私はこれまで、トレードなんてすべきではないと思える多くの顧客や友人たちに出会ってきた。トレードは彼らの性格や望む生活パターンに合わないのだ。トレードするのが怖い、あるいは秘密主義になる、あるいはトレードすることで胃が痛くなったり、健康を害するのは、トレードがあなたには合わない、あるいはこれから長い間情熱を傾けられるものではないことを示す良いインディケーターかもしれない。

 広い視野(Perspective)

 感情をコントロールすることはトレーダーにとっては極めて重要だ。トレード以外の活動をしたり興味を持ったりすることは、トレーダーにとっては視野を広げると同時に、ストレスの解消にもなる。あなたのパートナーはトレード以外のはけ口を持っているだろうか。彼らはどのようにして憂さ晴らししているのだろうか。ジョンの場合、子供たちと遊んだり、ジムに行ったりジョギングしたり、海外旅行したり、ビジネスネットワークグループ(メンバーのすべてがトレーダーというわけではない)と過ごしたり、もちろん愛すべき妻と一緒に過ごすことでストレスを発散させている。ほかの仕事をしている人と同じように、休みを取ったり休暇に出かけたりしよう。時には、トレードをやっていない人がトレーダーをモニターから無理やり引き離す必要があるかもしれない。うちではこれを「ゴクリ」(ゴラムとも言う。『ロード・オブ・ザ・リング』の登場人物)と呼んでいる。あなたのパートナーがコンピューターの前で覆いかぶさるようにうずくまり、まるで「大切な」何かでもあるように楽しそうにキーボードをたたき始めたら、そろそろ電源を切らせるときだ。私の知る成功したトレーダーで、プロのトレーダーへと飛躍できた人は、トレードを広い視野で見ることができた人だ。トレード以外のことで夢中になれるものを見つけ、トレードを牽制するうえで重要なことに対して大局観を持つことが重要であり、それがトレードを長続きさせる唯一の方法でもある。

 プラン(Plan)

 私は市場のテクニカルな面についてはあまりよく知らないが、これまで破綻した多くの人の話を聞いて分かったことは、トレーダーの良し悪しはトレードプランの良し悪しによって決まるということである。だれでもプランから脱線することは時にはあるかもしれないが、プランがなければ命運は尽きたも同然だ。ジョンはトレード日誌を付けている。もう何箱もたまっているが、彼はその日誌にトレードプランだけでなく、プランがうまくいったときとうまくいかなかったときの心の状態も記録している。自分の行動を振り返ることで、それまでのやり方を見直し、同じ過ちを繰り返さないようにするためだ。これは彼に最も合った市場におけるニッチを見つけるのにも役立っているように思える。その日に損失を出しても、私は気にしない。私が気にするのは、そのことを日誌に書かないジョーを見たときである。

 基本的なルール

 トレーダーと生活するのは市場のアップダウンを経験するのに非常に似ている。実際、市場の振る舞いはディナーの席でのトレーダーの心の状態のバロメーターになることが多い。トレーダーと生活するうえではいくつかのルールがある。これらのルールは、市場の起伏があなたとパートナーにとって少しでも楽しいものになるように手助けしてくれるはずだ。

 25セント硬貨があるのなら、話を聞いてくれるだれかに電話しろ

 トレードの繭から出てきたり階下に降りてきたりして、トレードの成り行きについて人に話したくてたまらないときがトレーダーにはあるものだ。でも、あなたの市場に対する情熱は大切な人には分かってもらえないことがあることを覚えておこう。でも、それは良いことでもある。バランスこそが関係を維持するうえで重要なのだ。あなたがその日のトレードのことを嫌になるほど細かく話している間、パートナーは上の空のこともある。私がジョンに見てもらいたい新しいカーテンの生地サンプルのことを話しても彼は聞こうともせずに、オプションの権利行使価格やEミニやフィボナッチクラスターのことを話しだす。もうあきれて話す気もなくなる。夜のデートだというのに、私はピノ・ノワールをちびりちびりやりながらこんな話に付き合うしかない。私たち夫婦の間には、異常なまでの興味があることについてのおしゃべりをやめさせる暗号がある。それは「カーテン」という言葉だ。その日に何があったのかお互いの話を聞くのは楽しいものだが、あまりにも詳細に話すのはトレード仲間だけにしてほしい。でもまぁ、大目に見てあげようではないか。あなたのパートナーはマリア・バーティロモではないかもしれないが、まったく構ってあげないわけではない。

 痛みの原理

 痛みはトレーダーの経験に反比例する。経験が少ないほど、悪い日だったと分かると、痛みを感じる度合いは大きいようだ。結婚してパートナーのトレード経験がまだ浅いころ、「損をして本当に気の毒に思うわ。大丈夫?」と書いたホールマークのカードがあったらどんなによよいだろうかと思ったものだ。1日で500ドルとか5000ドルの損を出した人にかけてあげられる言葉なんてない。しかし、パートナーが大きな損失を出して痛みを感じているときでも、ドローダウンを出すたびに業火で焼かれたり罵られたりするという恐怖を感じることなく、あなたのところにやってくるような関係を築くことは、トレーダーとしての人格を磨いたり自信を持ったりするうえで非常に重要なことだ。トレードで成功しても失敗しても隠し立てしないようにすれば、自分ひとりでその苦しみを背負う必要はないため、振り出しに戻ることができる。でも損をするたびに責めたてれば、トレーダーは軽率な判断を下し、自分自身や自分の周りの人をなだめるためにその損失をすぐに取り戻そうと愚かなトレードをしてしまう。損失をかみしめながら再びプラン作りに戻るほうがよい。

 部屋に入ってはならない時間帯

 トレーダーの毎日は浮き沈みが激しい。しかし、1日のうちで極めて重要な時間帯がある。それはおそらくは寄り付きと大引けのときだろう。この時間帯は、トレーダーのトレードスペースはハリー・ポッターの秘密の部屋と化す。けっして入ってはならいけない。私はこれを苦労の末に学んだ。ジョンのビジネスパートナーは家のなかに防音で鍵のかかった部屋を作ったほどだ。これはちょっと極端だが、このことからトレーダーによっては集中レベルが非常に高い人もいることが分かる。  怒ったトレーダー、あるいは怒りを直接表現せずに行動によって攻撃性を示す怒ったトレーダーを見たければ、この時間帯に彼らが電話に出るまで、あるいはトレードオフィスに駆け込むまで電話をかけ続けてみるとよい。これを毎日やる。すると彼らはイライラを募らせるだけでなく、大変横柄な人間になっているはずだ。あなたのパートナーが心臓切開専門の外科医で、あなたが手術の途中で突然手術室に乱入したとしよう。それはまずい。オープニングベルとクロージングベルの時間帯は、トレーダーの集中力はおそらくは最高潮に達する。手術台の上の患者のように、トレーダーの精神はバラバラになる。やがて市場にずたずたにされるのを待ちながら。

 野獣を手なずけよ

 家のなかでトレーダーを「飼う」のは、野獣を飼うのに少し似ている。トレードを始めたばかりのころは、彼(あるいは彼女)はまだ粗削りで、損をするたびにカンカンになって怒っていた。長い間トレードに夢中になると衛生状態も悪くなる。  もしあなたのところにいるトレーダーが前述の3つのPに従っているのであれば、彼(あるいは彼女)は成長し始めたと考えてよい。私の愛する野獣のジョンもこうして進化してきた。

 1年から5年――初心者

 発達の段階 トレード初心者は手に入れたあらゆるトレード戦略をうのみにする。彼らが「次の新しいこと」を見つけたと言うのをよく聞くはずだ。この段階では睡眠パターンは非常に不規則になる。イライラや癇癪を起したと思えば、歓喜に酔いしれハイタッチするといった状態はごく普通。壮大な妄想を抱くこともある。  配偶者が身につけたいスキル――忍耐力。

 5年から10年――中級トレーダー

 発達の段階 睡眠パターンはやや規則的になるが、突然不規則になることもたまにある。新たな興味が湧いてくることもある。中級トレーダーはほかのトレーダーとの付き合いも必要かもしれない。勝ったり負けたりするたびに躁鬱病の様相を呈することは少なくなる。書く習慣とホームワークのスキルは上達する。  配偶者が身につけたいスキル――受容。

 10年から15年――成功したプロのトレーダー

 発達の段階 成功したプロのトレーダーは人間らしい表情を取り戻す。公の場や社会的な場所に連れ出してもオーケー。損切りもうまくなる。体も銀行口座も絶好調。  配偶者が身につけたいスキル――笑顔。

 吟味せよ

 トレードとは突き詰めれば、リスクをとることとリスク管理が大きな比率を占める。私たちの場合、私たちが付き合い始めてかなり早い段階で大きなリスクをとり、大儲けした。それは私たちの関係を試すものであり、彼の能力を証明するものでもあった。私たちの失うものが金銭的なものだけのときにジョンはリスクをとった。20代のころはラーメンだけで数週間過ごさなければならないのであれば、それができた。初めての持ち家を持つことを待てと言われれば待つことができた。  しかし、3人の子供がいて、家賃さえ払えないような仕事をし、大きな借金があれば、危険性の高いゲームをしていることになる。前述の3つのPを持つことなく、あなたの人生やあなたを取り囲む人々の人生を食いつぶすようなトレードをしているのであれば、大変なことになる。あなたとあなたのパートナーがライフスタイルや物質や人生設計についての価値観が大きく異なるのであれば、それはトレーダーとしての生活を追求する前に(あるいは、結婚を考える前に)しっかりと調べておくべきことだ。  こんな生活を試してみる方法はたくさんある。なかでもトレードは最高の方法だ。でも、しっかり吟味して、トレードが本当に正しい道なのか、あなたにとってそれがふさわしいことなのかを考えてみることが必要だ。どれくらいのリスクをとるのかを決め、それに従ってプランを管理することが重要だ。

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