ディナポリの秘数 フィボナッチ売買法 目次

監修者まえがき                       1
謝辞                            13
書名について                        15
まえがき                          17

第1部 序論

第1章 トレーディング手法――
裁量的トレード手法 vs 非裁量トレード手法とポジショントレード vs デイトレード
  25  概説                           25  リアリティチェックをしてみよう              25  非裁量的アプローチ                    26   そうだったらいいのに……                26   現実は……                       26  裁量的アプローチの場合は                 27   そうだったらいいのに……                27   現実は……                       27  経歴                           27  いくつかの項目について詳しく説明しよう          30   1.ヒーローたち                    30   2.システム障害                    30   3.実習期間                      30  裁量的トレード                      32  まとめ                          35   裁量的トレードテクニックの特徴             35   非裁量的トレードテクニックの特徴            35   非裁量的トレードと裁量的トレードの特徴         35  ポジショントレード vs デイトレード            36  デイトレードの短所                    37  デイトレードの長所                    37  別の方法                         37 第2章 必要条件、基本原則、そして定義           39  必要条件                         39  基本原則と定義                      39  トレンド                         39  方向                           43  値動き                          45  フェイラー                        45  先行指標                         46  遅行指標                         47  論理的収益目標                      49  時間枠                          49  確認されたものと未確認のもの               50  間違い                          50  うまいトレード                      50  トレード計画                       50  まとめ                          50 第3章 成功するトレーディングアプローチの不可欠な要素   53  1.マネーマネジメントと自己管理             53  2.市場の機能                      54  3.トレンドと方向性の分析                56  4.買われ過ぎ・売られ過ぎの評価             56  5.仕掛けのテクニック(先行指標)            56  6.手仕舞いのテクニック(先行指標)           56  重要点                          56 第2部 コンテクスト 第4章 トレンド分析――DMA(ずらした移動平均)      59  概説                           59  DMA(ずらした移動平均)                 60  よくある質問                       60  より高度なコメント                    63 第5章 トレンド分析――MACD・ストキャスティックのコンビネーション  73  概説                           73  プログラムとプログラマー、そしてプロブレム        73  それでは本物のストキャスティックスさん、どうぞお立ちください   74  レーン(ロウ)ストキャスティックス            75  ファストストキャスティックス               75  スロー(優先)ストキャスティックス            76  修正移動平均(MAV)                    76  修正ストキャスティックス                 77  ザ・ストキャスティックス                 77  優先ストキャスティックス                 77  市場配列バーチャートと時間配列バーチャート        79  データサンプル                      79  プログラマーとアップグレード               80  ザ・ストキャスティックスを使う              81  MACD(DEMA)・ストキャスティックのコンビネーション    82  よくある質問                       92  まとめ                          94 第6章 方向性指標――高確率の取引シグナルを得る9種のパワーパターン  概説                           95  売りの「ダブルリペネトレーション・シグナル」または「ダブルレポ」   95  注目すべき重要なポイント                 98  よくある質問                       98  市場例                          101  「ダブルレポ・フェイラー」                110  よくある質問                       110  「シングルペネトレーション」または「ブレッド・アンド・バター」シグナル   114  パターンフェイラー                    118  「ヘッド・アンド・ショルダーズ・フェイラ―」        118  「トライアングルブレイクアウト・フェイラー」または「ウップス」    122  「人気の後退」または「強欲者の歓喜」           123  「線路」                         123  そこで、どうトレードするのか?               126  「ルック・アライクス(そっくりさん)」          130  「ストレッチ」                      130  「ブィブスクワット」                   130  「ブィブスクワット」のフイルタリング           132  よくある質問                       133 第7章 買われ過ぎ・売られ過ぎオシレーター――何が有効で、何が有効でないか、それはなぜなのか  135  概説                           135  ストキャスティックス                   136  MACD                           136  RSI                            137  CCI                            138  デトレンデッドオシレーター                139  デトレンデッドオシレーターの活用             140   戦略1                         140   戦略2                         143  ボラティリティブレイクアウト               144   戦略3                         145   戦略4                         146  注目すべき重要なポイント                 147   戦略5                         148  オシレータープレディクター                150  まとめ                          151 第3部 ディナポリレベル 第8章 フィボナッチ分析、基本               155  概説                           155  歴史                           155  由来                           156  指針                           157  2つの主要な比率である0.382と0.618を利用した基本的な押し・戻り分析   158  3つの主要な拡張比率である0.618、1.0、1.618を利用した基本的なフィボナッチの拡張分析   162  よくある質問                       164 第9章 ディナポリレベル                  165  序論と注意                        165  エリオット波動理論                    166  ディナポリレベル                     166  定義                           166   マーケットスイング                   166   リアクションナンバーまたはポイント           166   フォーカスナンバー                   168   フィブノードまたはノード                168   目標ポイント                      168   コンフルエンス                     168   リネッジマーキング                   169   理論的利益目標                     169   アグリーメント                     169   フィブシリーズ                     169   ディナポリレベルあるいはD−レベル           170  実例                           170  重要な注意事項                      177  精密レシオコンパス                    178 第10章 ディナポリレベル――複数のフォーカスナンバーとマーケットスイング   181  複数のマーケットスイング                 184  より高度なコメント                    187  より多くのフォーカスナンバー               188  フォーカスナンバーに対する時間枠の影響          190  レス・イズ・モア(少ないほうが多い)           191  フィブシリーズの剪定                   192 第11章 ディナポリレベルによるトレーディング        195  概説                           195  時間枠の移行                       195  理想的なトレード例                    198  より高度なコメント                    201  D−レベルの拡張分析とLPO                 202  逆指値設定に関する補足                  206  プレゼンテーション                    210  フィブノードのプリントアウト               211  ダウの例                         214  フィブノードの目標のプリントアウト            216  Tボンドのつなぎ足チャートでのアグリーメント       217  隠れたD−レベル                     219  より高度なコメント                    222  フィボナッチ分析を使った相場動向の定義          223 第12章 総合練習――基本例                 227  シナリオ1                        229  シナリオ2                        232  より高度なコメント                    233  現実に戻ろう                       237  よくある質問                       238 第13章 フィボナッチ戦術                  241  概説                           241  ボンサイ――仕掛けと逆指値を置くテクニック        242  ブッシュ――仕掛けと逆指値を置くテクニック        244  マインスイーパーA――仕掛けと逆指値を置くテクニック   246  可能性1                         248  可能性2                         249  可能性3                         250  マインスイーパーB――仕掛けと逆指値を置くテクニック   251  60分足のS&Pによるポジション戦術              252  トレードの続き(チャート13.11)              256  ウォッシュ・アンド・リンス――自信を構築するもの     258  よくある質問                       259 第14章 よくあるミスを防ぐために              263  概説                           263  Tボンドの例                       263  対象を広げてみよう                    267  質問                           270 第15章 追加の市場サンプル                 273  大豆粕の長期トレード                   273  概説                           273  コンテクスト                       273  トレードの開始                      275  トレードの継続                      281  重要な注意事項                      286  より高度なコメント                    286  間違いをしただろうか?                  287  より簡単な収穫                      287  短期のS&Pトレード                    287  概説                           287  トレンド                         288  買われ過ぎ・売られ過ぎの分析               289  方向の分析                        289  トレードの開始                      290  トレードの心理                      292  市場のメカニズム                     293  より高度なコメント                    296  質問                           298 エピローグ                         299 付録A                           301 付録B                           302 付録C                           303 付録D                           306 付録E                           309 付録F                           312 付録G                           317 付録H                           322 付録I                           323 付録J                           324 参考文献                          326 参考資料                          327 著者について                        330

■監修者まえがき

 元祖フィボナッチ・トレーダー、ジョー・ディナポリ

 フィボナッチといえばディナポリという名前が自然と頭に浮かぶほど有名なアメリカ人トレーダー、ジョー・ディナポリ。1980年代の後半からセミナーなどを通して彼は積極的に自然界が与えてくれたこの不思議な数字を使うことで収益を生む手法を公開している。

 また、早くからアジア市場に目を向けて、彼自身、タイに移り住んでいる。彼は、アメリカ市場の代名詞ともいえるS&P500先物を1980年代にアクティブにトレードをしていた。そのトレード数はかなりの量になっていた。実は、デイトレードにジョーはこのフィボナッチ級数を使っていた。今までにデイトレーディングに役立つ手法としていろいろな数字やルールが世間一般に公表されてきたが、先行役としての役割を成している指標を目にすることは少ない。
 ジョーはフィボナッチ級数を用いて導き出したエリアで取引に出る。一般に知られているデイトレードのブレイクアウト手法ではなく、マーケットの押しや戻りで仕掛けていく売買手法がジョーのアプローチ。
 また、損ぎりポイントがマーケットに近く低リスクで取引をするタイプでもある。トレンドの定義にもジョー独自の考えが使われている。これらの貴重な情報を彼は惜しむことなく一般に公表してきた。また、そのスタンスは、この先も変わらないだろう。そのため、今では、フィボナッチトレーダーと名乗る多くのトレーダーがいる。しかし、元祖はジョー・ディナポリ! 彼のオリジナルワークを楽しんでください。

 2004年9月

成田 博之

■まえがき

 テクニカル分析一色の世界に足を踏み入れる前に、多少の歴史的背景を知りたいという読者は、このまま読み進めてほしい。そうでない読者は第1章、もしくは第2章まで読み飛ばしても、私のトレード手法を理解するのにはまったく問題ない。

 では、なぜこの本を、なぜ今書いたのか。本音の質問をぶつけるならば、「なぜあなたは、それほど効果のあるトレード手法を公開してしまうのか。なぜ、自分ひとりだけで使い続けないのか。あまりに多くの人がそのトレード手法を使えば、その手法の有効性が低下するとは考えないのか」ということになる。答える価値のある、もっともな質問である。端的に言ってしまうと、マーケットは私にずっと寛大で、私に大きな移動能力と快適なライフスタイルを与えてくれたのである。また、私は最近、生命にかかわる健康状態を経験した。このことは、私が見直すためのきっかけとなった。この本を執筆することで、私は何らかの恩返しができるのである。詳しく説明するには、私の経歴から話さなくてはならない。

 私は1986年に、過剰なトレードと睡眠不足が原因となって、精神的にも肉体的にも、燃え尽き状態に陥った。お金と同僚からの称賛を得る引き換えとして、自分の健康と安らぎを犠牲にしたのである。人生には、S&Pの次のティックよりももっと重要なことがある、と悟ったのはそのときだった。友人であるジェイク・バーンスタインの助言に従い、私は講演活動をやってみることにした。1986年も終わりに近いころのラスベガスでのフューチャーズ・シンポジウム・インターナショナルでのことだった。私はまったく意外な聴衆の反応に直面したのであった。

 講演は、1時間ずつの2部構成となっており、第1部が午前に、第2部が午後に行われた。ベテラン講演者のひとりは、私にこう助言した。「説明は、上げ、下げ、上げ、引け、そして買いでいい。単純にするんだよ」。さらに「価値のある話なんて、だれも理解しないし、喜びもしないよ」と続けた。「でも、私はそんな方法でトレードしないですよ」と私は反論した。すると彼は、「だからどうだっていうの」と切り捨てたのだった。私は彼の皮肉な見方に驚愕した。講演の主催者であるジェイクに、私が何を話すべきか、彼の考えを聞かせてほしいと尋ねると、彼の答えは明確で簡潔だった。「自分が教えるべきだと思うことを教えればいい。聴衆がそれを理解しなかったとしたら、彼らが損するだけだ」。私はそのとおりにした。午前の講義には35人ほどの参加者がいた。彼らの関心は高く、質問も知性にあふれたもので、私は自分の知識を伝えながら質疑を楽しんだのだった。

 午後になって講義を再開した。こんどは部屋は満員だった。廊下やほかの部屋から椅子を拝借してきている人もいた。通路や床に座っている人や部屋の後ろにあるテーブルに腰掛けている人もおり、部屋の外にも、何とか中に入ろうと、おそらく50人ほどがひしめいていた。講義を始めて20分ほどたったところで、2人の出席者が議論を始めた。ひとりは比較的簡単な質問に対する答えを求め、もうひとりは私にそのまま講義を続けるよう求めていた。時間は非常に限られており、乱闘を回避するために私ができたことはそれだけだった。

 講演が終わると、私のオフィスマネジャーのパットと、私のプログラマーのジョージ・ダマシスのもとには、さらなる情報を求める人々が殺到した。講演の聴衆は、もらえるものは何でももらおうとしたのである。われわれは講義のトレンドとオシレーターの特徴を説明するために使用した、エンド・オブ・デイのグラフィックソフト(CISトレーディングパッケージ=the CIS TRADING PACKAGE)は持っていたが、私が講義したフィボナッチ分析に関するものはほとんど何も持っていなかった。幸運なことに、フィブノード(FibNode)のソフトの説明書が何部かはあった。これらはディナポリ形式のフィボナッチを教えるのに大変役立った。正直、このソフトの数本のベータコピーも含めて、全部取られてしまったのである。本当に全部!

 その後の数年間は、講演の仕事やテレビ出演、インタビュー、資金運用の申し出、ニューズレターやファックスサービスなどを始める計画、などでスケジュールがぎっしりと詰まっていた。私は、この分野で成功したことを喜び、教えることを心から楽しんだうえ、その過程で傑出した人物との出会いもあったが、一方ではすべてが若干の重荷になりつつあった。そのうえ、自分の開発したものが過度に露出すれば、それが市場や自分個人のトレード、さらには自分の生徒たちのトレードに影響を及ぼすのではないかという、絶え間ない不安にさいなまれていた。この可能性と闘うために、私は本の出版、資金運用、すべての種類のニューズレターの発行、宣伝することすらも断固として拒否していた。講義を無許可でビデオ録画されていたために、講義の中断を要求したことも3度あった。また、1990年にコースト主催で行った2日間の講演を録画した完全ビデオ講座の計画についても、教材が過度に露出することを恐れて、見送ったのである。しかし、どうにかして程よくバランスを取るために、私は自習トレード講座として、「フィボナッチ、マネーマネジメント・アンド・トレンド・アナリシス(FIBONACCI, MONEY MANAGEMENT AND TREND ANALYSIS)」を作った。また、フィブノーズのソフトウエア開発も続けていたし、CISトレーディング(グラフィックス)パッケージを改良した。さらには、出席者の人数を厳しく制限して、個人的なセミナーも何度か行った。

 私がここで自分の過去を振り返っているのは、いくつかの非常に重要なことを強調するためである。多くの同業者とは違って、私は、トレード方法論(たとえ裁量的要素が含まれている方法論であっても)が過度に露出することを心配しており、こうした懸念は正当かつ妥当なものだと信じている。これには哲学的な意味合いもある。万人の好みに迎合し、需要があればどのような商品でも作ろうとするプロフェッショナルは、最後には燃え尽きてしまうのである。仕事のなかで燃え尽きた人は、いくらでも挙げられる。私はむしろ自分の専門分野を維持することにした。

 露出が制限されていても、私は1987年半ばから1990年にかけての市場で、自分の講義が直接原因になっていると考えられる影響を目の当たりにした。その影響は控え目ではあったが、それでもなお明確に分かるものだった。率直に言おう。そこに何か良い方法があれば、それは伝播するのである。それが伝播しているならば、私たちは警戒する必要がある。その実用性が有効であることは変わらないだろうが、その戦略の実行がより困難になるという可能性が常にあるためだ。

 1984年ころから1987年にかけて、フィボナッチ分析は、私がこれからこの本でお教えするすべての重要な要素と相まって、驚くほど正確な結果を生んだ。それは恐ろしいほどだった。1989年終盤までには、フィボナッチの押し・戻り水準や目標水準に設定された大量の売買注文と、その前後数ティックに設定された逆指値注文が、未熟なフィボナッチプレーヤーのトレードの障害となり始めた。私自身は、自分が目の当たりにしたものを自分のテクニックで補正することができたが、軽い気持ちでフィボナッチを使っていたプレーヤーたちは痛手を受け始めた。大勢のトレーダーが本当に良いものを使い始めても、市場はやはり、多数が損をするように取り計らうのだろう。市場が機能するためには、そうあるべきなのだ(ジョー・ディナポリ制作のホームトレード講座『フィボナッチ、マネーマネジメント・アンド・トレンド・アナリシス』)。

 幸いにも、1989年12月に発行されたテクニカル・アナリシス・オブ・ストックス・アンド・コモディティーズ誌は、純粋数学の博士号を持つ教授タイプの人物による論文を掲載した。彼は、市場におけるフィボナッチムーブメントの妥当性について「研究」をした。そしてその結果、あらゆる理性的かつ知性的なタイプの人間にとって反論の余地のない、幾何学的論理を用いて、市場にフィボナッチ分析を適用するという方法がまったく機能しないということを「証明した」のである(ハーバート・H・J・リーデル著『ドゥ・ストック・プライシズ・リフレクト・フィボナッチ・レシオ?』テクニカル・アナリシス・オブ・ストック・アンド・コモディティーズ誌1989年12月号)。

 私がこの「権威のある」論文について知ったのは、1989年にシカゴの経済会議で講演を行っているときだった。私が、良き友人でありクライアントであるプロのフロアトレーダーと共にいると、複数の参加者が興奮しながら私たちに詰め寄った。最初の人物はストックス・アンド・コモディティーズ誌を振りかざし、私が次回予定している講義の主題が「完全なる誤りであることが証明した」とするこの論文に興奮していた。

 彼らの興奮の理由が判明したとき、クライアントと私は同時に、トレーダー式の「ハイファイブ」を交わしたのである。それは戦の前の踊りのようなものだ。講義の参加者らは素人であり、私たちの喜びを理解することができなかった。フィボナッチの第一人者がなぜ、ストックス・アンド・コモディティーズ誌に掲載された、フィボナッチ分析が機能しないと主張する論文を喜ぶのか。私たちがプロとして望んだことは、そしてそれは新人トレーダーには理解できるはずのないことだが、それは、プロのトレーダーとしての私たちの仕事がこれからはより容易に、しかも大いに容易になるということだった。何となくフィボナッチを使っているというプレーヤーにとって市場の状況が難解になっていたことと、雑誌の論文のおかげで、その後の数週間から数カ月間に、現実は私たちの期待どおりとなった。

 つまり私にとって、自分のトレード方法を明かすことは、そうした暴露がもたらす可能性のあるマイナスの影響と、のちに自分の専門分野における権威として認められるような膨大なメリットとの間の綱渡りなのである。現在、単にトレードに成功するだけのために懸命に努力している読者の多くは、トレードの専門家という立場があなたにどんな道を開くのか、想像することもできないだろう。それは米国だけではなく、世界中どこでもそうだ。

 1991年ころから、私の関心はアジアへと移り始めた。アジア諸国の市場は崩壊し始め、アジアをはじめとする世界各国にいる顧客からは、私の手法がライバルたちを丸焼きにしているという情報がひっきりなしに入っていた。私は生徒たちに対して常に、最も簡単に利益を得られる場所に行くことを教えており、また私自身は常にアジアに行きたいと思っていた。そこで私は米国で最高の講演会の契約を除くすべての援助を断ち、アジアに密集しているすべての不思議を解き明かすべく旅に出発したのである。プロとして、各国の主要都市で講演を行った私は、文化への洞察力を得ることができ、自分が訪問した各国の市場がどのように機能しているのかについて、「要求にかなった情報」を収集することができた。素晴らしい経験だった。米国に戻ると、なかには依然として私とどうにか接触してくる顧客もいたが、その人数は対処可能な数であったし、もっと重要なことは、市場への影響は依然として目立たなかった、という点だった。第2刷の出版にあたり執筆している現在(2001年)、この書籍を世に出すのに絶好の環境が整っているように見える。新たにフィボナッチの専門家となった人は大勢おり、そのなかには私の元生徒もいる。素晴らしい業績も残されている。一部のこの手法に関する本は、「役に立たない」本と呼んでもいい。このことについて考えみよう。フィボナッチ分析に関して「役に立たない」本が書かれ、人々がその手法を活用して損を出しているとすれば、それは良いことなのである。適切な形式の概念を利用するということからかけ離れた方向へトレーダーを導くものであれば、それはどんなものでも、概念の利用方法に熟練したトレーダーにとっては好都合となる。私たちにとって重要な価格水準での「破壊的な」動きは少なくなるだろう。同様に重要なのは、オンラインでのデイトレーダーが大量に出現したという点である。手数料は大幅に値下げされ、ECN(電子取引ネットワーク)によって、大口トレーダーと小口トレーダーがトレードに支払う金額の格差はほとんどなくなった。データやソフトウエアの価格も低下を続けており、インターネットはトレード環境に革命を起こした。こうした現象によって、これまで私が見たこともないほど大勢の無知なアマチュアトレーダーがトレードに参入している。ニュースを追いかける感情的なアマチュア集団ほど、テクニカルに基づいた私たちのトレードの正確さを強化してくれるものはない。そうした人々の苦しい立場に対して私が無感覚だというわけではけっしてないが、彼らがもっと勉強しないかぎりは、いずれは食われていまうのである。私たちは、こうした事実を有利に活用するべきである。

 端的に言うと、こうした現在進展中の状況は、私にとってトレードしやすい環境を作り出し、また私がこの本を執筆することを可能とし、さらにはこの本が売れ続けている背景となっている。単純な事実を言うと、無知で感情的なトレーダーや、フィボナッチ分析の間違った、あるいは役に立たない手法を教える人が増えれば増えるほど、私と読者にとっては好都合なのである。概念のすべてが完全に否定されるということは、実質的には不可能だ。この手法に賭けて、多額の資金でトレードを行っている人が、あまりに多いのである。もしも彼らがその手法を適切に活用する方法を知っていれば、の話だが。

 フィボナッチの手法やインターネット、オンライントレードに加えて、市場には新しいテクニックや手法がたくさんある。教えることに熱心な新米のエキスパートに、熱心な新米トレーダーがいて、新品のトレード手法が教えられている。分かりにくいシステム構築型の手法が搭載されたトレードステーションやその他のソフトウエアパッケージによって、これまでよりずっと多くの市場で膨大な注文が出される。これらはすべて朗報だ。結果として、この本に書かれていることをきちんと理解すれば、多大な利益を得られる可能性が高まるためだ。ただし気をつけなくてはならない。もしもこの本が大ヒットし、もしもここに書かれている手法が広く活用されたら(それには労力を使うため可能性は低いが)、いずれは何らかの影響が出るかもしれない。どんな手法でも、あまりに広く普及すると、市場は概して、その手法の真の潜在力と利点を完全に理解するために、徹底的に研究し、微妙な違いにも気づくトレーダーのみを受け入れるようになる。さあ、あなたの興奮に満ちた冒険が今、始まろうとしている。

■第1章 トレーディング手法――裁量的トレード手法vs非裁量的トレード手法とポジショントレードvsデイトレード

 概説

 裁量的アプローチの場合、トレーダーはある特定の基準もしくはコンテクスト(環境)の範囲内で決定を下さなくてはならない。一方、非裁量的システムは完全にテクニカルに依存した戦略である。
 私が活用するトレード方法には判断力が必要とされる。このトレード方法を気に入っているためだが、その理由は、裁量的戦略には非裁量的戦略にはないさまざまな利点が内在すると確信しているからだ。人の心が生み出す柔軟性と、市場環境の変化に対応するために必要な修正のスピード、この2点が裁量的戦略によるトレードを行う最大の理由である。とはいうものの、私はこれまで人に教えた経験から、現実と矛盾した異なるトレーディング戦略に関して多くの人々が先入観を持っているということも認識している。いかなる分野で成功するにも、まずはその基礎的条件(ファンダメンタルズ)を理解しなくてはならず、したがって基礎的なトレーディングアプローチに関してある程度の実態を見ておくことが、読者にとって得策だと考えたのである。まずは現状を把握すること(リアリティチェック)から始め、次に過去のデータに目を通せば、なぜ私が前述した結論に達したのかがお分かりになるだろう。まずここでは、裁量的トレード手法と非裁量的トレード手法、そしてポジショントレーディングとデイトレーディングを比較してみよう。

リアリティチェック

 「そうだったらいいのに(Wouldn't it be nice...)」で始まるビーチ・ボーイズの有名な歌がある。不変の愛の美しさと楽しさを称えた歌で、恋人たちはデイジーの花のなかをスキップしながら言葉に尽くせぬ至福の理想郷へ行くことができる、という内容だ。しかしその数年後には、ビーチ・ボーイズのメンバーの何人かは、離婚訴訟という法的対決を含めて、結婚生活の現実に直面する結果となった。離婚にまでは至らなかったメンバーも、これまでの最高のパートナーだったはずの人が、自分の隣にできたベッドのくぼみと大差ない存在になったという事実を、内心では認めているはずだ。
 期待と現実とのギャップは常にこれほど大きいのだろうか? それはもちろん違う。十分な努力をすれば、その中間のそこそこの成果が出せる望みはある。同様に、裁量的トレーディングシステムと非裁量的トレーディングシステムにも同じことがいえる。まずは非裁量的トレーディングシステムを見ることにしよう。

非裁量的アプローチ

 そうだったらいいのに……

  1. 開発が完了すれば、それでリサーチと作業は完了となる。あなたのトレーディングシステムは設定され、固定され、変更されることはない。意思決定作業はあなたの管理を離れ、機械の設定範囲内で行われるため、ストレスはまったくない。徹底的かつ厳密なつもり売買を行うことから、出たとこ勝負となる可能性はまずない。すべての要素が考慮されているため、あなたの自信が揺らぐことはない。
  2. 契約しているトレーダーやブローカーによるトレードの発動条件を事前に決めておくこともできる。そうすれば、自分自身でモニターを見続けるという退屈な時間を過ごさずにすむ。
  3. 「それ」(例えば「システム」「プログラム」「解決策」)が十分な利益を生み出すため、あなたはフィジーへ旅行に行き、ビーチでのんびりできるようになる。おそらくは「それ」が生み出す利益で扶養費や子供の養育費すら支払えるようになり、あなたはベッドのくぼみを埋めてくれる新たなパートナーを探せばよい。
 現実は……
  1. 作業が完了することはない。システムに設定した過去データの上限や下限がブレイクされた場合、あなたはパラメータの微調整やテストやご機嫌取りをやり直す必要が生じる。

    1A. 実際は、株価の変動格差をならすためには、2種類といわず3種類、あるいは4種類の独立したシステムを活用することが望ましい。もちろん、ちょっとした微調整や再編だけではなく、1種類ないしは2種類がまったく使い物にならないということが判明した場合には、これらのシステムを完全に交換しなくてはならなくなる場合のほうが多い。

    1B. ストレスはどうか。ストレスがどんなものかは、あなた自身が道を踏み外した無力感を経験をするまで分からないだろう。(1種類または複数の)システムが次々と不合理なオーダーを指示し続けるなかで、あなたは結果を達成することに虚脱感を感じる。利益が吹き飛んでしまい、すぐに損失に変わるということが分かる。こうなったとき、あなたは何もできず、システムがもたらす指示を見て、それに従うことしかできないのだ。おいマック! そこの胃薬を貸してくれ……早く!

    1C. 法外な水準だと考えていたスリッページ(注文執行時における価格成立のズレ)と手数料のための100ドルが、実はまったく不十分だったということに、あなたは気づくだろう。ストップ高や安が連続する可能性を考慮していなかったり、相場が何の修正もなしで40ポイントも飛ぶこと、最悪の値段での注文執行、などなど。事前の検証データは十分満足のいくものだと思われたが、実際はそれほど良くもなかった。データ検証技術に対するあなたの自信は、口座の金額とともに、新安値を付けることだろう。

  2. あなたがトレードを委託したブローカーは、相場が大きく変動するときに限って注文執行に失敗するし、……なぜか逆指値注文を正しく執行することもできない! あるいは、あなたが契約したトレーダーは、自分の膨大な経験(1年間)を活かして、あなたが長年奮闘して完全にした戦略を「改善」するためにおせっかいをするだろう。

  3. あなたは、十分なシステムを分散化するためには、4種類のシステムを使用し、15種類の先物商品をトレードする必要があると判断するが、それぞれに対して十分な運用資金を供給するためには、資金を調達し、それを管理しなければならない。あなたは、開示文書を用意し、CFTC(米商品先物取引委員会)の監視を受け、スタッフがいて、NFA(米国先物協会)からは想像もしなかったほど多数の順守規定が用意されている。法人税の申告を順守することを難しいと思ったりするだろうか。マニュアルは非常に厚く、あなたは疑問を感じ始める。種をまいたデイジーの芽は出るのか、ましてや日の光を拝むことはあるのだろうか、と。

裁量的アプローチの場合は

 そうだったらいいのに……

  1. 有力なプロのなかでも最高と称される専門家のもとで学ぶ。卓越した市場の理解力を駆使して勝率90%を達成する。
  2. 好きな場所に住み、好きなときにトレードを行い、何年間もの悩みの種となってきた従業員とのもめ事からも解放される。
  3. ささやかだった資金は、手腕と不断の努力によって正真正銘の巨大な財力へと転じる。増え続ける財産の一部を高利回りの金融商品の口座に預け、その収益で好きなときにフィジーへ旅行することが可能になる。そして……そこからは想像にお任せする。

 現実は……

  1. ある有力なプロから学び、別の有力なプロからも学ぶ。断片的にある程度の役立つ知識を吸収するものの、期待には程遠いことを実感する。

    1A. より現実的には、トレードを開始して何年もたち、セミナーや教本、ソフトウエア、トレード講座などに3万ドルを費やしたにもかかわらず、収益はこの出費をカバーできるかできないかという程度にすぎない。しかも、過去のトレードで出した5万ドルの損失は、まだ取り返すことができずにいる。

  2. 実際に収益が得られ、大きなホームランを打てる手段が見つからなければ、口座の預貯金は何カ月間かで尽きてしまうだろう。あなたはだれかのもとで働く従業員となることを考え始める。

  3. 四六時中モニターを見ていなくてはならないうえ、寄付きには必ず立ち会わなくてはならず、夜間のグローベックス取引に悪戦苦闘する。こうしたストレスと時間的な拘束によってあなたは、近場のビーチにすらいつ行けるのか分からない、と考えるようになる。フィジーといえば、フィジーに関する商品はあるのだろうか。呼値はいくらなのだろう。……フィジーの人はどこでトレードをするのだろう。

 さて、物事は私が上記でざっと説明したほどには楽観的でも悲観的でもないが、現実にそうなるのも簡単だ。実際は、もっと悪い状況すらあり得るのだ! 以降に記すことは、私が直接経験したことに基づく無資格の所見であり、私の体験した冒険旅行の手記だ。これら出来事は作り話ではなくて、実際に私が体験した話である。したがって、私がどのようにしてある結果に辿り着いたのかが分かるだろう。そして、おそらくはあなたも、自分に最適な場所を決めるのに、自身にとってより有利な判断を下せるようになるだろう。

経歴

 1980年ごろ、私は先物市場に投資することを決めた。それまで生業としていた自動車販売業を辞め、最も過酷で最も潜在利益が高いと思われた選択肢を採る、という計画だった。転職の時期は、人生における私の地位に対する自分の見解と関係があった。転職を決めたときには、私には、苦しい時期となることが予想された移行期を乗り越えられるだけの十分な「資産」があった。さらには、自分の知識とトレード技能は、この新たな挑戦に対応しうる水準に達していると考えていた。間もなく私は2つのことを実感することになる。自分が「資産」を構築するまで転職を待ったことは幸運だったということ、そしてこの挑戦は自分が予想していた以上に過酷なものであったということだ。私の冒険旅行のハイライト、それは、先物取引をどのように始めたか、そして最終的にどのように成功をつかんだかという点にある。

 1年ほど下手なトレードを続けたあと、私は社会的交流を通じて、非常にやり手ながら隠遁したあるCTA(商品投資顧問)との会合をようやく実現することができた。この人物は過去5年間に農産品先物で何兆億ドルを稼いだと言われている。この風変わりな人物について、ここで説明したいところではあるが、彼の素性に気づく人もいるだろう。彼の指導を受けるひとつの前提条件は、彼の素性を明かさないということだった。もちろん、私は今でもこの条件を破ったことはない。

 一通りのあいさつが終わると、この「知的人物」は私たちの会合でこんな話題を持ち出し始めた。「もしも君が火星人で、商品を取引するために地球にやって来たとしたらどうするだろうか」。うーん……。「君は、こちらの相場、あちらの相場、それからそっちの相場と、いろいろな相場を見るだろう。英語を話すことができないために、ただ相場を見ているだけだ。相場はその間も変動する」。彼はさらに続けて、「君は火星人の友だちにこれらの相場について話をし、適切な対応について考えをめぐらす」。私は彼を、十戒を刻んだ石版を背負い、サンダルが自分に合っているかを黙想している、(旧約聖書の予言者)モーゼであるかのように見つめていた。1時間に及ぶ謎めいた「ご宣託」を聞き終えた私は、極めて困惑、混乱して、大豆相場がどちらに動くかを教えてもらえれば、それだけで良しとする気持ちになっていた。願わくばその情報が、彼に会うために支払った旅費を取り戻すのに役立ちますように!
 彼は私が幸運にも出会うことのできた3人の良き指導者の最初の人物だった。私を指導してくれた彼らの親切心と意欲が重要な決め手となり、1986年に私は人に教えることを決意した。

 そこでだが、火星人の話は一体何だったのか。解明するのにかなりの時間を要した。彼は宝箱を開ける鍵を持っていたが、それを目的も、興味も、誠実さも分からないような他人と共有するつもりはなかったのだ。この会合はその後約3年間にわたり多数行われた会合の第1回目となった。非裁量的システムの基礎に忠実かつ完全なトレードを行うこの人物からは多くを学んだ。しかし、不思議な話だが、私が学んだことのなかに、あの最初の会合で私が追い求めていたものはひとつもなかったのである。彼が私に教えたことは、次のとおりである。

  1. 完全無欠のヒーローなどいない。賞味期限のあるヒーローがいるだけである。
  2. すべての非裁量的システムは、いずれは機能しなくなる(利益を出せなくなる)。機能している間だけ活用することが望ましい。
  3. あなたの知識基盤に対する信頼性、適格性、事前必須要素が確立されれば、良い情報は真のエキスパートから収集することができる。
  4. 非裁量的システムの場合は50%の勝率を達成できれば幸運であり、30%でも許容範囲である。
  5. 非裁量的システムによるトレードは、困難でストレスも多い。驚異的な集中力、不断の努力、自己規律が要求される。
  6. トレードの全プロセスにおいて、最高レベルのチャレンジ、達成感、発見が得られる。

いくつかの項目について詳しく説明しよう

  1. ヒーローたち
     70年代の市場では、私の友人は本当に素晴らしく調和のとれたヒーローとなった。非裁量的、ファンダメンタルズベース、数学的な彼のシステムは非常に巧妙に組み立てられていた。しかし、70年代の終わりにインフレがピークを過ぎ、海外からの(穀物)供給の道が開かれると、システムは崩壊した。

  2. システム障害
     膨大な個人的情報と財産と経験を使い、彼は失ったものを取り戻そうと、再び熱心にスタッフとメーンフレームの模索を開始した。彼が研究したなかでも興味深いデッドエンド(行き詰まり)のひとつとなったのは、トレード可能なトレンドが存在するかどうかを判断する点においてのランダム性、もしくはそれの欠落を発見したことだった。言ってみれば、DMI(ディレクショナルムーブメント・インディックス)が狂ってしまったようなものだ。このシステムは2年間は非常に有効に機能したが、その後は利益を生まなくなった。後にそのシステムが損を出したときには、その被害は巨額となった。ほかのトレーダーや共同出資パートナーらとの話し合いを経て、彼は、システム開発を行っている私のほかの友だちの多くと同じ道をたどり、同じ結論に達することになった。それはつまり、時間のテストを処理するには、ある種のボラティリティブレイクアウト・システムが最適だということである。しかし、多くの人が同意見だと思うが、こうしたタイプのシステムの利益・損失レシオ(win/loss ratio)が芳しいとはいえず、分散投資の必要があるため、運用には多額の資金がかかるのが一般的だ。こうしたすべての複雑な計算のなかから収集できるさらなる希望もある。例えば、システムのなかには、機能しなくなるまでに5年、あるいは10年かかるものすらある。そうしたシステムのひとつを幸運にも初期に手に入れることができたならば、少なくともしばらくの間は、素晴らしい好成績を残すことができるはずである。

  3. 実習期間
     初対面の人に、これまで得てきた知識を伝授してもらえると期待した私の考えは、非常に浅はかだった。彼が私の誠実さ、私の価値に気づいてくれるだろうという考えも甘かった。彼に何年間も貢献してようやく、知識を伝授してもらった。彼の知識を理解するには、そのための準備が必要だということを、彼は知っていたのだ。それだけではなく、彼が知っていることを私に伝授すれば、彼が知っていることが非常に少ないということに私が気づく、ということを知っていたのである。

 これがすべての出来事だった。われわれがこの点に達したとき、私は先へと進んだ。その後の16年間に、定着したシステムを活用して成功した素晴らしいトレーダーとの出会いは多くあったが、最初の恩師から学んだことを大きく覆すような理論には一度も出合っていない。
 この人物と仕事をしていた時期に、私は思いがけず、トレードに成功するための素晴らしいコツを得ることができた。これは私の2人目の恩師によって与えられたものだ。彼は極めて成功した裁量的トレーダーで、人情からだと思うが、私にDMA(ずらした移動平均線=Displaced Moving Averages)を勉強することを勧めた。もちろん、私にDMAの勉強を勧めたあとは、DMAの何たるかを私に説明しなくてはならなかったわけだが。説明が終わってようやく、私から解放された彼は自分のメインフレームに戻ることができた。
 当時私が知っていた真に成功したトレーダーは、全員がメインフレームを持っていたようで、全員が非常に変わり者で隠遁者的だった。私がこの人物とかかわった時間は15分に満たないが、そのときに私は進むべき方向を見つけたのである。3年後、私の調査結果を彼のものと比較してみると、2つは驚くほど類似していた。2つの調査内容を照らし合わせるのにさらに15分かかったほどだ。これがこの人物と話した2度目で最後の機会となった。今では私も、収益性があり、合理的に一貫性のある裁量的方法でトレードを行っている。
 しかし、この方法はそれほど劇的だったというわけではない。勝率は50%ほどで、見返りは大きかった。妥当な手法ではあったが、私は完全には満足していなかった。必要は発明の母の諺のとおり、必要が私の最初の重要な独自の発見につながった。真の先行指数である「オシレータープレディクター(Oscillator Predictor)」の発見だ。この指数によって、私は収益を手にし、リスクの高い仕掛けを回避することができるようになったのである。
 私の手法が本当にうまくいき始めたのは三番目の恩師に出会ってからだ。彼は私にフィボナッチというイタリアの数学者について話をした(ピサのレオナルドとして知られる人物で、グイリエルモ・ボナッチ・ボナッチの息子。イタリア語で「フィグリオ」は「息子」を意味し、「フィグリオ・ボナッチ[ボナッチの息子]」と呼ばれていたが、年月を経てフィボナッチに短縮された。当時の傑出した数学者であった)。この三番目の師も一風変わっていた。自分のメインフレームを持たず、隠遁とは無縁の人物で、私が今までに出会った最も輝かしいトレーダーであることは間違いない。完全なる裁量的トレードが基本で、彼が高値や安値、中期的な上昇相場の天井や、中期的な修正安の水準を的中させるのを、私はこの目で見た。すべて彼の望むがまま! 彼のトレーディングスタイルは、私がそれまでに考えたことのある、いかなる合理的期待をも超越しており、しかも彼はそれを私の目の前で実際にやって見せたのだ! ある日の午後の短い時間に彼が自分の手法を教えてくれたときに初めて、私は彼の手法が一貫性があって、収益性のあるトレードから程遠いということに気づいたのである。経験(時間)が再び私からヒーローを奪い去り、彼は金持ちから無一文へと転落し、破産し、負債者となった。聖杯にはきっと修理の必要な多数の穴が開いていたのだ。何年もの経験を経て私がようやく得た下記の結論が、トレードの本質を構築しているのである。

裁量的トレード

  1. トレードを行うときに最も重要な道具、それはコンピューターでも、データサービスでも、方法論でもない。それはあなた自身だ! あなたが正しくないならば、トレードはしないほうがいい。

    1A. トレードを休むことは、特にデイトレーダーにとって不可欠だ。私が割り出した自分に最適な休息ペースは、3〜6週間に1度、3〜7日間程度の休暇をとることだ。

    1B. デイトレードを行うのであれば毎年3〜6カ月間、デイリーベース以上のトレードならば毎年最低でも1〜3カ月間の大型休暇をとること。

    1C. 1週間のうち4〜5日は、マーケットやコンピューターに関係のない自分の好きなことをする時間を、少なくとも1時間は作ること。私自身は手を使う作業が好きで、車の修理を行ったり、物を直したり作ったりしている。

    1D. プロフェッショナルの定義とは間違いの最も少ない人を指すのであり、まったく間違いのない人のことではない。もしも重大な間違いをひとつ犯したときは、3日間トレードを休むこと。短期間(2営業日以内)に3つの間違いを犯してしまったときも、やはりトレードを3日間休むこと。

    1E. 上記の1Dに記したルールを破った場合は、罰金としてこの世で一番嫌いな人物に10万ドルを進呈すること。興味深いことだと思うが、私が教えた多くのトレーダーのなかで、強制されずに1Dのルールを守った者はほとんどいない。間違いの定義は第2章の「基本的ルールと定義」で説明する。間違いについては、この著書のなかで何度も言及されるため、明確になるだろう。間違いを犯したという事実といつ間違ったのかを認識することが重要だ。

    1F. 10日間以上トレードしていないときは、最低でも1週間は大量(多数のポジション)のトレードを控えること。

    1G. 自分自身をトレーダーとマネジャーの2つの役割に分けること。トレーダーは、マネジャーの明白な許可なしではトレードできない。マネジャーは「健康」に対する重大な兆候を注意してみること。例えば、間違い、イライラ感、トレーダーの私生活におけるストレス、目の下のくま、鼓腸、などだ。お分かりだろうか。大惨事が起きる前にトレーダーを電話から引き離すのはマネジャーの役目なのである。優秀なマネジメントの必要性を疑うのならば、ベアリングス社が崩壊したケースを考えるべきだ。

     80年代終盤のことだが、私が教えていたある人物が、それまでは一貫してかなりの収益率をはじき出してきたというのに、突然に損失を出し続け始めたのである。彼の性格に変化が生じているらしく、彼の私生活に何らかのストレスがあることは明らかだった。ある日の夜、私たちはマーケットについて話し合っていた。彼が「原因不明」の損失について大いに愚痴をこぼしていたとき、私は彼に、子供が生まれるまであと何カ月かと尋ねた。「3カ月です」と彼は答えた。「一体どうしてそのことを知っているのですか?」  トレードをするうえで「健康」であることがいかに重要かは、もうすでにお分かりのはずだ。自由裁量が反映されるシステムや方法は、トレード執行のタイミングとトレード枚数の双方における裁量の質に依存している。その自由裁量次第では、数カ月かかって築き上げたものを1週間で失うこともあり得るのだ。

  2. この世界には、教えることが好きで、自分の意思を伝える資格を持つ、博識で正直かつ誠実なトレーダーがいる。そういった人物を探し、余裕があるならば彼らの資質を伝授してもらい、彼らと交流を深めることだ。日常の会話を通じて彼らから得たものの多くは、あなたの成功にとって極めて有益なものとなるだろう。彼らもだれかの助力を得てきたのだ。彼らへのアプローチが正しければ、彼らはできるかぎりあなたを手助けしてくれるはずだ。

  3. 裁量的トレードは、信じられないほど有利な利益・損失レシオをもらたすが、いい気になってはいけない。 3A.非常にスピーディに膨大な利益を実現すると、自尊心が必要以上に大きくなることがある。たった1回のトレードで、謙遜さを身をもって知らされるということを常に忘れてはいけない。

  4. トレードの意思決定時間には、まったく邪魔が入らないようにすること。いかなるものも、完全に遮断すべし! あなたのオフィスが自宅にあり、デイトレードを行っているならば、鍵をかけて、その家を共有しているだれからも自分を遮断し、その場をひとりで使うこと。このことで、あなたの配偶者や家族との間に問題が生じるのであれぱ、トレードをしないか、別の配偶者と家族を見つけることだ。

     私の顧客のひとりにカイロプラクターを営む人物がいた。彼はカリフォルニア州北部にある自宅からトレードを行っていたが、私はこのことを繰り返し警告した。彼の妻が軽い気持ちで彼に近づき、クロップリポートの発表直前に彼の腕に赤ん坊を渡したことで、この人物は4万ドルの損失を被ったのである。経験は厳しい師だが、多くの人にとってはそれが唯一の師なのである。

  5. 市況の変化に対応できるスピードは、非裁量的戦略よりも裁量的戦略のほうが相当に速い。これによって、判断力のない(固定された)システムの障害に付随して発生する巨額のドローダウンを防ぐことができる。あなたがエンジニアならば、エネルギー変換機のスピードに付随する機能として、反応を無視したり、反応に焦点を合わせたりする、メカニカルフィードバックシステムを考えてみられたい。そのフィードバックシステムの速度が十分に速いならば、市場の変化にもついて行くことができるだろう。しかし遅れをとるようならば、180度位相がずれて、対応できなくなる可能性もあるのだ! トレードにおいても同じことがいえる。
  6. 裁量的システムを使ったトレードは困難であるうえ、驚異的な集中力、不断の努力、自己規律が要求される。

  7. トレードの全プロセスにおいて、最高レベルのチャレンジ、達成感、発見が得られる。
 結論を言えば、どちらのトレード方法にも、それぞれ特定の長所と短所が存在するということだ。私は裁量的方法を選んだ。あなたの素質、精神力、財源、目標が、前述したやりがいや長所と一致しているかという点が最大の問題となる。私の知るかぎり、多大な労力と膨大なストレスを回避する方法はない。覚悟を決めなくてはならない。もしも熱すぎて耐えられないと感じたら、すぐに台所から出ていくことだ。

まとめ

裁量的トレードテクニックの特徴

  1. 非常に柔軟な市場への取組アプローチを活用できる。
  2. かなり融通の利くスケジュールを組むことができる。
  3. 短期間に膨大な利益(もしくは損失)を実現する可能性がある。
  4. 極めて有利な利益・損失レシオをもたらす可能性がある。
  5. 厳格な個人管理が絶対に必要である。
  6. トレードに適切な孤立した環境が絶対に必要である。
  7. 相対的に「少額」の資金で自分の目標を達成することが十分に可能だ。
  8. 相対的に少数の市場に焦点を絞ることは、可能だというだけでなく、むしろそのほうが望ましい。

非裁量的トレードテクニックの特徴

  1. 一般的に利益・損失レシオはあまり良くない。
  2. 過去データによるつもり売買は、さまざまな理由から、概して深刻な欠陥を示す。
  3. 大半の非裁量的システムは、最終的には機能しなくなる。目標としては、それが機能している間だけ活用することを試みることだ。
  4. ボラティリティブレイクアウト・システムは、時間の経過とともに古くなるということがないようだ。
  5. エクイティカーブをならすには、幅広い市場でトレードを行う複数のシステムが必要となる。
  6. システムと投資先を分散し、また回避することのできないドローダウンのためは、相対的に多額の資金が必要となる。
  7. もしシステムと投資先の分散化が達成されたならば、多額の資金を運用することが可能となる。
  8. トレードのシグナルを常に執行し続けることが肝心だ。つまり休息はない。
  9. システムのシグナルを執行するための適切なヘルプを得ることは、それ自体がチャレンジである。

非裁量的トレードと裁量的トレードの特徴

  1. トレードの目標を達成できれば、素晴らしいライフスタイルを得ることができる。
  2. トレード経験を通じて、達成感、やりがい、新たな発見を得る可能性がある。
  3. ストレスにうまく対処できないと、ストレスの圧力で心身ともに完全に破壊される場合もある。
  4. 軽率あるいは身勝手なアプローチは破産につながる。
  5. 仕事量は膨大で、終わりがない。適切に管理する必要がある。
  6. この世で最も優秀で才能にたけた人物にめぐり合う、あるいは友だちや同僚となるチャンスを得ることができる。


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