描画方法はいたって簡単。時間帯を30分ごとに区切り、それぞれにA、B、C〜のアルファベットを割り振る。そして、各時間帯に付けた高値と安値の間を、割り振ったアルファベットで記入し、一定の間隔(例えば1日単位)でまとめるだけだ。
この技法は、もともと先物取引所で、スキャルピングやデイトレードなど、短期売買をするフロアトレーダーのために開発された。しかし、本書ではあえて、FX(外国為替証拠金)市場の分析を中心に紹介している。
ただし、その中心は「インターバンク」と呼ばれる相対取引のネットワークであり、株式や先物のように「取引所」ではない。そのため、取引所が私たちに提供する重要なデータである「出来高」が、FXには存在しないのだ。
出来高は、一般のトレーダーには無視されがちな情報である。しかし、市場参加者が本能的に考えている「節目」と「勢い」を示唆してくれる貴重なデータだ。値動きと絡めて分析することで、さまざまな売買アイデアを提供してくれる大切な手がかりとなる。それが、FXにはないわけだ。
ところが、マーケットプロファイルなら「どの価格に出来高があるか(ないか)」、その形状から一目で分かる。しかも、相場のモメンタム(勢い)やトレンドがつかめ、その後の展開を予測し、対策を立てることもできるのだ。
本書では、マーケットプロファイルの作り方から、基本用語、パターン、応用分析まで紹介している。また、2002年に発刊された『マーケットプロファイル』の改訂版としての性格も持つため、株式や日経225先物にも応用できるよう、一般的な分析技法や短期売買(デイトレード)についても掲載した。
■はじめに
近年、FX(外国為替証拠金取引)が一般的になってきました。
相場関連雑誌を開けば、どこかに必ずFXの記事があり、“カリスマ”と呼ばれる人が指南をしています。そういった記事のお決まりのセリフは「ラクして儲けられる」「コツコツ儲けられる」といったものです。
たしかに2008年のリーマンショック以前、いえ、日本銀行がゼロ金利政策を実施していた期間には、FXでコツコツと儲けられる場面がありました。当時、筆者の知り合いのFX会社の方からも「ウチの顧客のとある主婦が何億円儲けた」という話を聞いたことがあります。
しかし、こういう「分かりやすい」相場があるのは、FXに限ったことではありません。株式にも、先物にも、債券にもあります。FXもまた、こうした「相場商品」のひとつでしかないのです。
そして、こうした相場は長く続きません。つまり永久にラクして儲けられるものではないのです。
FXをトレードされているのであれば、まずはこうした「先入観」の排除をお勧めします。FXは株式や先物、債券と同じ相場商品です。FXだけが特別で、ラクで分かりやすい市場ということはないのです。
ファンダメンタルズでは一筋縄でいかない
むしろFXは、その「ダイナミズム(動態)」が複雑といえます。株式や大半の先物では、一国のファンダメンタルズと参加者が中心になるのに比べて、通貨交換という性質上、二地域以上のファンダメンタルズが絡み合うからです。
また、さまざまな国の多種多様な参加者がいるため「市場規模」は、ほかとは比較しようもないくらいに巨大です。
例えば、2009年の上海証券取引所の“年間”売買高が5兆100億ドルになり、東京証券取引所の4兆700億ドルを抜いてアジア1位になったことが話題になりました。
しかし、FXは国際決済銀行(BIS)の2010年9月の発表によると“1日”の取引高がおよそ4兆ドルにもなる巨大市場なのです。FXの世界では、ある銀行の1人のディーラーが1日に何兆円もの取引をすることは当たり前です。
この結果、何が起こるか。FXはその市場規模の巨大さゆえ、市場観測、噂、さらには通貨当局者の発言、各国の有力政治家の発言などに、過剰なまでに反応します。これは長年、筆者が常々実感していることです。
筆者は1996年から、主に金利市場を対象とした「アナリスト」をしています。具体的には、日米の国債市場、そしてその派生商品類(先物やオプションなど)が専門です。それは当然、各国の金融政策、財政政策、ひいては通貨政策も分析対象となります。
例えば、日銀幹部の発言や、財務相の発言など、円債市場ではすでに「織り込み済み」とされているような材料にも、FX市場は過敏に反応するのです。こうした場面を、筆者は数えきれないくらい見てきました。
これは米債市場でも同様です。米債市場が十二分に織り込んでいた「金融政策の変更」で、FX市場は過敏に反応するのです。「え?これにドル円相場が反応したの?」というケースが多々あります。
一方、各国の通貨政策どおりに相場が動くわけでもありません。通貨の場合は、相手(国)あっての「相場」ですから、緩やかな政策にならざるを得ないのが実情といえます。
例えば、日本政府が「自国通貨安政策を実施します」と高らかに宣言したとして、米国や欧州は「はい、そうですか」と、すんなり許容するでしょうか?
通貨とは、その国の象徴でもあり、その国の貿易政策とも絡みます。お金が関わる部分では国家のエゴが前面に出てくるため、表面的には相手国との「闘争」に近いものになったりもします。しかし自国の通貨を安く誘導する政策を叫んでみたところで、それが果たしてどこまで実現し得るのかというと、なかなか思惑どおりにはいかないというのが現実です。
単純に日米の金利差のみを見ておけばドル円相場の方向性が分かるかというと、これもそううまくはいきません。
例えば、FXの分析で「米債が売られて、利回りが上昇したことを好感してドルが買われた」などというコメントがたまに聞こえます。他方「基軸通貨としてのドルの信認が低下してきたことで、米債、米株、そしてドルが売られた」という場合もあります。
ニワトリと卵のように、まったく逆の反応です。つまり、FXの値動きに定型化できるものはない、というのが実情といえます。FX市場では、ファンダメンタルズのメインポイントが、その時々によって変わっていくのです。
市場参加者の多さゆえ、規模の巨大さゆえ、常に何かに敏感に、いや過敏に反応する一方で、鈍感で無反応なところがある――。だからこそ「FXは面白い」のではないでしょうか。
そして、こうした面白い相場のダイナミズムを分析するツールが、今回ご紹介する「マーケットプロファイル」なのです。
マーケットプロファイルでFXの出来高をつかむ
マーケットプロファイルはよく「出来高分析」といわれます。
「出来高」とは、売買が成立したときの数量です。例えば、相手が1ドル=85円60銭で1万ドルを買いたいという提示を出していたとき、自分がその条件で1万ドルを売ると同意すれば、そこで出来高1万ドルの売買が成立したことになります。
出来高が多いということは、取引で成立した数量が多いということです。そして成立した数量が多いのですから、売買が活況であったと考えられます。
このとき売買をした大多数の人は、その価格帯が売買に適正だと感じたからこそ参加したはずです。多くの人がその価格帯を意識して動いていると予測されます。
したがって、出来高の多い価格帯は値動きの「節目」となりやすいといえるのです。相場の転換点、上値抵抗、下値抵抗を読み取ることができます。
株式や先物の取引所では、価格だけでなく、この出来高も情報として提供されるのが普通です。しかし、先ほど述べたように、FXは株式や先物と比べ物にならないほど巨大な市場であり、取引の主流はOTC(Over The Counter)つまり相対取引です。
取引所を介さずに、当事者同士(FX会社と個人トレーダー、大手銀行同士など)で価格、量、方法を決めて取引します。したがって、正確な出来高は誰にも分かりません。先ほどの4兆ドルも、あくまで推測です。
ところが、マーケットプロファイルなら、このFX市場の出来高を推測できるのです。その形状を見れば「もっともたくさん取引された価格帯はどこなのか」がひと目で分かります。
本書は、なかなか聞き慣れないであろう「マーケットプロファイル分析」を使って、FXを分析するためのノウハウ本です。これまでの経験から、FXの分析という点で、新鮮なものを読書の方に提供するべくまとめたつもりです。本書が皆さんのトレードの一助となれば幸いです。
2010年10月 柏木 淳二
※マーケットプロファイルは、シカゴ・ボード・オブ・トレード(現シカゴ・マーカンタイル取引所グループ)によって商標登録されており、グラフなどの著作権は同社が保有しています。
※本書におけるマーケットプロファイルのデータは、CQGに基づくものを使用しています。
※本書に記載されているURLなどは予告なく変更される場合があります。
※本書に記載されている会社名、製品名は、それぞれ各社の商標および登録商標です。
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