この話は、相場(トレード)においても例外ではない。やるべきこと、つまり“型”が決まっている人は、そのときどきの上下のブレがあったとしても、結果的には利益を手にできる可能性が高い。逆に言えば、型が決まってなければ、ときには大金を手にすることはあっても、再現性がないので最終的には利益を吐き出す可能性が高くなってくる。
スポーツの世界などでは、体力の限界という要素が関わってくるため、“生涯現役”はなかなか難しいが、トレードの世界では話は別だ。着実に利益を取れる型があれば、“生涯現役”を貫き通すことができる。そのために、何をすべきか。何を決めるべきか。その疑問に答えたのが本書である。
本書は、2006年7月22日に行われ、大好評のうちに終わった「講演(セミナー)」の話をベースにしながら、新たな情報を追加するなど、理論を再構築したものである。自分の年金くらいは自分で稼げるようになるための“生涯現役”のノウハウを、戦略・戦術・戦闘法という位置づけで公開している。簡単に概要を紹介すると以下のようになる。
具体的に言うと、「中期トレンドの傾きにより大きく買いか売りかを決め、株価サイクル(株価と10日移動平均線や25日移動平均線、60日動平均線との関係から判断)のどの局面にいるかを確認し、銘柄を絞り込み、短期トレンドの傾きを見て出動し、そのときの株価サイクルに合った戦闘法で相場の波を乗り越えていくもの」である。考え方はわかりやすい。
“生涯現役”のためのこの手法は大きく利益を手にする方法ではない。数パーセントから5%の利益を、1週間から2週間以内に着実に取っていく手法である。人によってはもっと利益を手にしたいと思うかもしれないが、“生涯現役”を目指すのであればこれで十分なのである(月5%のリターンで計算しても、5×12=60で、年に60%のリターンになる)。
あとがき
相場を探求すればするほど「相場とは人生そのもの」だとわかってきます。人生にも山あり谷あり、何をやってもうまくいく上昇基調のときもあれば、逆に何をやっても空回りする下降基調のときもあります。
世界史を振り返ると、生物の種であれ、国家であれ、企業であれ、大きな環境の変化に直面したとき、その対応を誤ると衰亡する、あるいは、滅亡する運命を辿ったことに気がつきます。つまり、環境変化に対する適応力が存続を決めるのです。これは相場で生涯現役を貫こうとするときにも当てはまります。では、何が環境変化に対する適応力を決めるかと言えば、その答えは国家の興亡の歴史の中にあり、大きな環境変化に直面したときの戦略なのです。
本書では、戦略から戦術、戦闘法に至るまでを売買ルールという形で体系的に具体的に説明しましたが、参考までに、私の売買ルールの構築法を簡単に説明します。
まず、相場を長期的、中期的、短期的に分けてそれぞれじっと観察します。すると時折、何らかの規則性があることに気づきます。それが「分かった!」という閃きです(=eureka!=優利加)。その閃きが正しいものと仮定して、その有効性と限界をできるだけ多くの銘柄とできるだけ長い期間で検証し、考察します。すると、その閃きの有効性が高い局面とそうでない局面が見えてきます。それを局面ごとに整理して売買ルールの中に取り込みます。そしてまた検証し、売買ルールの精度を高めるため微調整をします。そしてまた検証する。この作業の繰り返しで少しずつ進化していきます。
株式投資(トレード)には基本と原理原則がありますが、事前の正解というものはありません。しかし、事前の正解がないからと言って、でたらめにやっても構わないというわけではありません。
人間は冷静な時には相対的に合理的な判断をして行動しますが、感情的になるとパニックになり非合理的な判断をして行動します。株価は短期的には、人間の欲望と恐怖が交錯して需給バランスを短期間で大きく崩すため、相場が乱高下することがよくあります。このような局面では「業績見通しが良好だから上がるはずだ」というような合理的な判断は短期的には裏目に出ることが多いことは読者の皆さんも数多く体験したのではないでしょうか。このような場合、「上がるから買われる」あるいは、「下がるから売られる」というような心理的要因が相場の趨勢を決定します。このような領域を探求する学問分野が行動ファイナンスです。スイングトレードの場合はこちらをより重視します。具体的には6つの株価サイクルを意識するということです。
しかし、株価は中長期的には、短期的なパニックによるノイズの影響が薄まりコーポレートファイナンス理論が説くような価格の均衡点(株価のフェアバリュー)を求めて中長期のトレンドを描きます。相場という小宇宙の姿は形がいつも同じではなく、ときには液体のように捉えどころがなくなることがありますが、それでも企業業績見通しという核があります。これが株式投資の基本と原理原則です。投資の場合はこちらをより重視します。具体的には、株価のフェアバリューと中長期トレンドの方向性を意識するということです。
結局、株式トレードを生涯に渡って安定的に実践するには、株価のフェアバリューと中長期トレンドの方向性(基本と原理原則)を理解したうえで、人間の欲望と恐怖による需給バランスの崩れが起こす短期トレンドに乗ることが基本戦略となるのです。なぜなら、短期トレンドに乗り続ければ、結果として中期トレンドにも乗ることになり、中期トレンドに乗り続けるということは、結果的に長期トレンドにも乗ることになるからです。
相場を探求するとは人生を探求することでもあります。だからおもしろいのです。
2007年11月
優利加